ギター1本でなんでもカバーする。さすがにそこまで都合の良いギターはありません。ギターは様々な構造があり、それぞれサウンドが異なっています。その中で、あるジャンルに特定して作られたモデルもあれば、広いジャンルをカバーするべく作られたものもあります。
クラシックなモデルは、先にギターがあって、そこからジャンルが生まれたりもしています。例えばレスポールモデルは、最初に生まれた当時、まだロックンロールというジャンル自体が完成しておらず、ギターはクリーントーンが基本でした。1952年当時、先進的なスタイルのギタリスト、レス・ポールのために作られたそのギターは、当時最先端だった「ソリッドボディ」で作られました。最初のモデルはレス・ポールが特許をもつトラピーズテイルピースを採用、その後様々な進化を遂げる中で今のレスポールモデルに近づいていき、完成形となったのは1957年。これも当時最新だったノイズの出ないピックアップ「ハムバッカー」と搭載しました。
分厚いソリッドボディで音が丸すぎ、さらに新しいロックンロールというジャンルに人気が集まる中、古い世代のギタリストとなってレス・ポールのモデルは売れにくくなっていきます。ギターに使われる木材も、当時は木目のない部分こそが高級材で、今で言うフレイムメイプルのような木目は「B級品」。1958~59年ごろのモデル末期のレスポールモデルにはそういった木材が使われました。
60年~61年にはレスポールモデルがモデルチェンジ。しかし勝手に行われたモデルチェンジに加え、その形を気に入らなかったレス・ポールはギブソンとの契約を解除、そのモデルはSG(ソリッドギター)として販売されることになります。
ところが、モデルが終了してから10年近く経った1960年代後半、UKを中心に生まれ始めていたハードロックというジャンルでは、より太い音、アンプを歪ませるパワーのあるサウンドを求め、レスポールモデルの再評価が行われます。「B級品」だったフレイムメイプルトップを用いた59年製のレスポールを手にしたのはジミー・ペイジ。それが今では伝説の「バースト」としてすさまじい価格となっていたりもしますね。
また、そのレスポールモデル再評価の話をアメリカにツアーで来ていたローリング・ストーンズのキース・リチャーズから聞いたレス・ポールはギブソンに掛け合い、レスポールモデルの再販が実現。1968年、レスポールリイシューモデルが発売されます。以降、レスポールモデルは当初のモデルの役割とは違う、ハードロックのアイコンとして知られていくようになります。
逆にジャンルのために作られたモデルも多数あります。思い浮かびやすいのはメタル用のハイゲイン系ギター。ですがエレキギターが大きなマーケットとなる前にもそういったモデルは多数あります。例えば1960年代、全盛を誇ったサーフミュージックのために開発されたのがフェンダーのジャガーです。多彩なスイッチやミュート機構などを搭載し、最も多くの音色を選べるフェンダー最上位モデルとしての位置づけで発売されましたが、構造上ロングサステインを作る事が苦手で、後のロックの人気に伴い、ジャガーの人気は低迷、75年にモデルは廃止となります。80年代にフェンダージャパンでリイシューが開始されますが、USA製で再販が行われるのは2000年まで待つことになります。
とまぁ、こんな感じで、クラシックなギターにはそれぞれ固有の音があり、得意とするジャンルも異なっています。
初めて買うギターは何が良いのか、と聞かれたら、私は答えが決まっていて、「好きな見た目のもので、出せる予算の中で高い方」と答えます。それが仮にやりたいジャンルに向いたギターではないとしても、好きなモデルを使うことの方がモチベーションが上がると考えるからです。
ですが、最近は「ギターをステージで弾きたくてギターを始める」わけではないことも増えてきています。かつてのように「ヒーローが使う楽器」に近づきたいということではなく、「必要だからギターを始める」ことも多くなってきていますね。たとえばDTMで音楽を作っていて、プラグインの音色だけでは物足りなくなってきたとき。広いジャンルで使用されている楽器の中で、プラグインでの再現が最も難しいのがギターだと言われています。
よりリアルなサウンドを作るために、ギターは本物を使う、ということは多いです。雑誌などで作曲家さんとか有名ボカロPとかのDTM環境なんかを見たりすると、PCやモニタ環境とギター、みたいなことも多いですよね。そういう「必要になったから」ギターを始める人も増えていたりします。
また、より「効率」を求める人も増えています。1本でできる限り多くのジャンルをカバーできて、さらに手頃なギターという需要は、以前よりも増してきているのは確かだと思います。そういったモデルを考えるとき、「SSHのストラトタイプ」はとても効率的な選択肢となるのではないかと思います。メタル多めな人ならHSH配列の方が良いかもですが、より多くのジャンルをカバーするのはSSHですね。なので、今回はそんな「手頃で本格的な音も出せるSSHストラトタイプ」を選んでみました。
実際、このスタイルのモデルはめちゃめちゃ数が多いです。値段を気にしないのであれば、SuhrとかJames Tylerなどのハイエンド機種も多くありますが、初めてのギターとしても選べるモデルではないですね。(別に初めてがそういうギターでも全然良いんですけど)。
かといって、ギターのことを知らない人が激安ギターを買うのも、あまり推奨できないです。そういうギターは個体差などもありますが、どうしても作りが荒いことがどうしてもあって、でもそれが最初だと分からないんですよね・・・。もちろん、それを気に入って使っているのはとても良いことです。ですが、単に「効率」を求めたとき、激安ギターはそこまで効率的ではなかったりします。そこで、今回は激安帯ではなく、少し上の手頃な価格帯。具体的に実売価格で6~10万円程度のモデルを5機種選んでみました。順に見て見ましょう。
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