新シリーズをはじめたいと思います!この「ギタークローズアップ」のコーナーは、何か一つのギターについて、そのギターの仕組みや歴史、種類などを書いていき、ギター図鑑的なものにできたら、と思っています。
それでは第一回はエレキギター界の革命児、テレキャスターを見ていきましょう。
Fender TELECASTER
- テレキャスターの歴史
- 世界初のエレキギター?
先に言うと、これは大きな間違いです。エレキギターをどのように定義するか、ということをまず考えますと、マグネクティックピックアップを使って弦振動を電気的に変換し、アンプで鳴らすことを目的としたもの、というあたりでいいのではないかと思いますが・・・そうすると、世界最初のエレキギターは、リッケンバッカーのラップスティールギターで、フライングパンと呼ばれるものだったということですね。そもそもPUの原理って、マイクロフォンとほぼ変わらないんですよ。どういうことかというと、マイクは空気の振動を内部の金属製の振動膜に伝え、その振動で発せられた磁気を磁石を使って電気信号に変換しているのですが、ギターにおいては、弦がそのまま振動膜の役目をするので、より直接的に音を拾うことができるわけですね。ですから、スティール弦を使うギターなら、例えば電話の受話器に入っているコイルを使っても、ギターの音を拾うことはできます。*1
そういった原理で鳴らされるエレキギターとしては、最初はリッケンバッカーのラップスティールギター、そしてスパニッシュタイプの、抱え込んで弾く、いわゆる「ギター」としてのエレキギターは、Gibson ES-150という、カッタウェイのないフルアコタイプのエレキでしたね。今のES-175の前身ではないでしょうか。
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- 世界初のソリッドボディ?
これも間違いです。まず、ソリッドボディのギターといえば、今のところエレキギターしかありません。生音が小さすぎますからね。では、世界初のソリッドボディをもつエレキギターは・・・ビグズビーのカスタムメイド品でした。ビグズビーといえば、グレッチに搭載されているクラシカルなトレモロで有名ですが、このトレモロの開発においてはもちろん、ギター自体もオーダーメイドで作成していた人なのですね。そして、その初のソリッドボディを持つエレキギターの形は、ボディ形状はレスポールやES-175で挙げたようなシングルカッタウェイで、当時としては珍しいものではありませんでしたが、なによりヘッド形状がそのまんま60年代〜のストラトラージヘッドなわけですよ。テレキャスのヘッドもストラトと違うとはいえ、方向性は似ていますから、ソリッドボディ、シングルカッタウェイ、裏通しの弦、片側に全てのベグを並べる非対称のヘッドと(テレキャスの最初のプロトタイプでは、3対3のヘッドデザインだったようですが)、明らかにこのビグズビーのギターを意識したものだったと見て間違いないと思います。一応Fender社は否定していますが・・・。(その後ストラトキャスターでさらにこのビグズビーギターのヘッドに似てくるのですが・・・)
あえていうなれば、「世界で初めて大量に市販化されたソリッドボディのエレキギター」といえば正しいと思います。
世界初のソリッドボディエレキギター画像をイメージ検索
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- テレキャスターの誕生・・・の前に
テレキャスターは今とは違う名前で世に出されました。それは、フロントPUのない「Esquire(エスクワイア)」という名前で、1949年に制作され、1950年、シカゴの楽器ショウに出展されました。
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まず、ネックは極薄ソリッドメイプルで、トラスロッドは入っていませんでした。ま、プロトタイプですからね・・・。そして、PUはリアのみ、コントロール系はマスターVOL、マスタートーンと、3WAYスペシャルトーン選択SWでした。テレキャス独特の、ハイパスコンデンサも搭載されていたようです。最初のギターということで、レオ・フェンダー氏の入魂ぶりがうかがえますね。
そして、テレキャスターは「BroadCaster」という名前で市場に出されます。これは有名な話ですが、この名称が、当時グレッチ社の持っていた商標に抵触する、という形で名称変更を余儀なくされてしまいますね。ちなみにグレッチの商品は「BroadKaster」という名前で、CとKが違ったのですが、これがグレッチ側の強引な言い分なのか、それとも当時から類似商品を避けるためにBroadCasterの商標も取得していたのかは定かではありませんが・・・。どちらにせよ、Gretschといえば当時既にGibsonと並ぶ伝統ある一流楽器メーカーで、ラジオの修理やアンプ、PA機器の貸し出しをしていて、楽器業界に足を踏み入れたばかりのFenderが勝てる相手ではありませんでした。
ちなみにBroadKasterの名前は、現在もグレッチのドラムセットで使われています。
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- テレキャスターの誕生
さて、名称変更を余儀なくされたFenderは、テレビの大規模な発展と普及にあやかって、「Telecaster」と名づけたことも有名ですね。このBroadCasterの名前が使えなくなってからしばらく、新たなTelecasterのデカールが完成するまでの間、名称を表す部分のデカールをはずした、通称「NoCaster」と呼ばれるものが流通していた時期もあります。カスタムショップから復刻もされていますね。
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- 当時のテレキャスターへの印象
テレキャスターがエスクワイアとしてショウに出されたとき、「トイレの蓋」「ボートのセール」など、あまりいい印象はもたれなかったようです。まぁそりゃそうでしょうね。当時のエレキギターといえば、グレッチやギブソンESシリーズのような、大きくてfホールが付いていて、非常にエキゾチックなモデルが主流でしたから、なんか便座みたいな形をした板っ切れ(とくにカッタウェイの部分がそう見える)に、プラスチックを貼り付け、指板も貼っていないようなギターは、とても陳腐なものに見えたことでしょう。
ですが、プレイヤーからの評価、ことそのサウンドに対する評価はまた違ったもので、かなりの好評を得たといいます。でないと今もFenderが存続していることはなかったでしょうね。
- テレキャスターの特徴
- 工程的な特徴
よくFenderがテレキャスターの製造において革命を起こした、とは言われていますが、片側6連ペグも、ボルトオンネックも、別にレオ・フェンダーが初めてやったことではありません。片側6連ペグはさきほどのビグズビーのギターでも確認できますし、ボルトオンネックも当時のエントリーモデルなどでは使われていた手法だということです。では、テレキャスターの特徴ともいえるつくりを見ていきましょう。
・ボルトオンネック
先ほど書いたとおり、これが初めて、というわけではありませんが、当時のギターのネックはセットネックが主流でした。しかしセットネックはニカワ等を使った技術と精度が要求されます。それに対して、ボルトオンならばネジの穴あけさえきちんとすればいつでも取り外して治すこともできますし、なによりその工程が早いため、コストがかかりません。
・フラットトップ
アコースティックギターでは以前からありますが、エレキギターではどちらかというとアーチドトップが主流でした。しかしフェンダーは当時、アーチトップを作るための機材を持っていなかったようです。
また、テレキャスターのボディシェイプの元となったMARTIN D-45に代表されるドレッドノートスタイルのアコギはフラットトップですし、それほど驚くことではないと思います。しかしアーチの加工がいらないのでこれもコストが少なくて済みますね。
・角度をつけない非対称ヘッド
片側に6連ペグを搭載した非対称ヘッドも前述のとおり、主流ではないものの新しい技術ではありません。見た目の好みは別として、プレイアビリティを考えると、ペグどうしの間隔のせまい6連ヘッドは、3対3配置のヘッドに比べてチューニングがやりにくいという欠点もあります。しかし、この形で、しかもヘッドに角度をつけないことで、ここでもコスト削減を図っています。どういうことか、ちょっと図で説明しますね。
どちらも左側がレスポール等の角度付き左右対称ヘッド、右がフェンダータイプの角度なし非対称ヘッドですが、上から見ても横から見ても、フェンダータイプの方が2本のネックを作るときに使う木材の量が少ないのが分かるとおもいます。とくに厚みの比較では圧倒的にフェンダータイプの方が少なくて済みますね。
・ボディ直付けの電装系
これに関してはテレキャスターが元祖だと言ってもいいと思います。PUのエスカッションあたりからヒントを得た可能性はありますが。ボディの裏から穴を開けることをせず、表からキャビティの穴を開けてしまい、ピックガードやコントロール系周りの金属のフタをつくり、そのフタに全ての部品をぶら下げてしまうことで、ボディ表からの操作だけでギターを作ることができるわけですね。裏まで穴を貫通させるのは弦を通す穴だけ、というのはすばらしい工程省略です。
・メイプル1ピースネック
それまでのギターの指板は、ローズウッドかエボニー(またはハカランダ)と相場が決まっていました。しかし、テレキャスターは指板を貼らずに、ネックそのものにフレットを打ち込んでしまい、トラスロッドを裏から挿入してフタをする、という方式をあみ出しました。これも、指板に使う木そのものが必要ないわけですから、大幅なコストカットですね。ヘタをすれば「手抜き」と見られてもおかしくなかったでしょう。
・アッシュ材を使用
テレキャスのボディは、アッシュが最初でした。当時のギターは、ほとんどがマホガニーかメイプルを使っていたのですが、フェンダーがあえてアッシュ材を使ったのは、単に安かったから、ということです。アッシュ独特の堅い音がよかったとか、そういうことではないようです。というか、レオ・フェンダー自身はギターを弾くことができませんでしたから、あくまでも工業製品の観点からギターを作っていたようですね。
・ニトロセルロースラッカー塗装
これも別に音質を重視したものではなかったようです。というのも、ヴァイオリンフィニッシュという非常に時間のかかる方法が当然だった楽器業界において、自動車の塗装に使われた塗料を楽器に塗りつける、という発想自体がなかったようですね。今では重宝されているラッカー塗装ですが、もともとはこれもコストカットの対象だった、といえるのではないでしょうか。
と、テレキャスターの特徴ともいえる構造は、ほとんど全てがコストカットや大量生産の方向性を向いています。工学的な観点から最も効率のいい方法でギターを作り出そうとした結果、あのFenderの音が出た、というわけです。そして、おそらく価格もギブソンやグレッチに比べて抑えられていたでしょうから、もともと裕福でないロックミュージシャンが使いはじめ、結果的に今の音楽シーンを代表するサウンドとなった、と考えるのが自然ではないかと思います。そして、そういった生産の効率性を重視した作りこそ、ギターの革命を起こしたといわれる所以だと思います。
別にフェンダーの姿勢を批判しているわけではありませんよ。
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- サウンドの特徴
当時のテレキャスサウンドを聞くならば、やはりLed Zeppelinがいいと思います。ジミー・ペイジといえばトラ目のレスポールというイメージがありますが、初期の作品はほとんどがテレキャスターで録音されています。アンプはVOXとかHIWATTといった機材が使われたようですが、考えてみればVOXの中低域によったサウンドと、オールドテレキャスの持っていたサスティン(ペイジのテレキャスはサスティンがよかったそうです)、そしてブライトさがうまく合わされば、逆に高域によったマーシャルアンプとレスポールの組み合わせによるサウンドは意外とよく似ているのかもしれません。
現代のテレキャスサウンドといえば、ブライトでキャリキャリしたものですが、これはこれで、歪ませると意外と低域がでて、ロックンロールに合うんですよね。非常に魅力的なサウンドをもつギターだと思います。
- テレキャスターの種類
ここでいくつか、テレキャスターのモデルを見ていきましょう。あまりに種類があるので、カスタムショップ等のマニアックなモデルや、PUや材質の違い程度のものは省略して、一般的なものを挙げていきます。
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さて、今回はテレキャスターを詳しくみてみました。いろいろと調べていく中で、ギターの歴史なんかも分かって、私としてもなかなか楽しかったです。次回はストラトキャスターを見ていきたいと思っています。
*1:実は電話のコイルを使って、寺内タケシさんがリッケンバッカー以前にエレキギターの元祖のようなものを作った、ともいわれています。