昨晩、ちょっとスタジオに入っておもしろい弾き比べをやってきました。
アメリカのハイクオリティなギターブランドとして知られるPaul Reed Smith、そしてドイツのハイエンドギターブランドで、ドイツ国内のPRSギターのリペアを全て任されているというNik Huberギターの弾き比べです。
押しも押されぬ有名ブランドにして、高級ギターの代名詞ともいえるPRSと、PRSに認められたリペアマンであり、また小規模にギターを製作するハイエンドブランドの1つNik Huber。それぞれどんな共通点があり、違いがあるのか、さっそくレポートしてみます。
まずは実際に弾いたギターからご紹介します。
Paul Reed Smith Signature Limited
【Stoptail】PRS(Paul Reed Smith)Signature Limited '2012【Black Gold Wraparound】 |
PRSのSignatureシリーズは、もともと1986〜87年ごろから1991〜92年ごろにかけて1000本の限定で製作されたモデルで、Paul Reed Smith本人のサイン(シグネチャー:署名)入りで製作されていたことからそう呼ばれます。PRSの究極のカスタムと呼ばれたりすることもあり、今もし市場に出れば相当な価格になるモデルです。その後300本の限定でSignature Limited Editionというモデルも製作されたようです。
2011年、PRSからこのSignatureシリーズを元にしたモデルが、PRSのカスタムラインであるPrivate Stockシリーズから発売されます。その後、2012年にレギュラーラインにて限定で作られたのが、今回弾くことの出来たモデル、「Paul Reed Smith Signature Limited」です。
ボディは、PRSレギュラーの最上位であるArtistシリーズと同等のハイグレードなメイプルトップにマホガニーバック、マホガニーネック、ローズ指板22F仕様。ピックアップはフロントに小さく、リアに大きなハムバッカーを組み合わせる408ピックアップで、1Vol、1Tone、3Wayセレクターと、フロント、リアそれぞれのコイルタップスイッチ。ブリッジはラップアラウンドタイプのPRS Stoptailで、ペグは PRS Phase III Locking Tunersを搭載しています。
現行モデルのPRS 408に近いタイプのモデルですが、コントロール配列が違っていたり、材のグレードも高めのものが使われているようです。
Nik Huber Dolphin II
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Nik Huberのスタンダードモデルにして最も有名なモデル、Dolphin IIですね。なかなか楽器店でも実物を見る機会がないギターの1つです。では、レポートいってみましょう。
- 試奏環境
今回はスタジオということで、エフェクターもいくつか使って試しました。アンプはMarshall JCM900です。JC120もあったんですが、なんか調子悪かったので今回は使っていません。
エフェクターは、BJFe Honey Bee OD、Landgraff Distortion Box、Leqtique 9/9、およびStrymon blueSky Reverbを使いました。
- 外観
ハイグレードなギターなので、見た目も非常に重要な要素ですね。まずボディ形状ですが、PRSはストラトキャスターとレスポールの要素を合わせたようなダブルカット、Nik Huberはテレキャスターとレスポールを合わせたようなシングルカットのスタイルです。
ボディトップはそれぞれキルトとフレイムの違いはありますが、どちらも非常に美しい、そしてゴージャスで派手な木目が特徴ですね。PRSはバインディングなしのバーストカラー、Nik Huberはメイプル側面をナチュラルカラーとするナチュラルバインディングのロイヤルブルーカラーとなっています。PRSはV12フィニッシュという、薄い塗装となっています。見た目はどちらも非常に光沢感の強い塗装が特徴。これに関してはNik Huber側がPRSの影響を受けたものだと思います。非常に似たスタイルのモデルですね。
材の組み合わせも基本的に同じで、スタンダードなレスポールと同様の組み合わせとなっています。Nik Huberはブラジリアンローズ、いわゆるハカランダを指板に使っています。ブラジリアンローズは外観上、目の詰まったローズウッドとなります。ネック形状は、PRSの方はPattern Regularということで、PRSのスタンダードなタイプ。Nik Huberはそれより少し太めのネックでした。また、PRSの方は分かりませんでしたが、Nik Huberは10"〜14"のコンパウンドラディアス指板となっています。
ヘッドの形状も似た雰囲気を持っていますね。各弦がほぼ直線にペグへと到達するスタイルで、非常にエレガントな印象です。Nik Huberはマッチングヘッドで、キルトメイプルが貼られています。あとスケールが、PRSはストラトとレスポールの中間的な25インチスケール、Nik Huberは25.5インチのロングスケールという違いがあります。
そして外観といえば、ネックのインレイはどちらも凝っています。PRSは有名なバードインレイ、Nik Huberはイルカをかたどったドルフィンインレイ。どちらも動物がモチーフとなっていて、とても美しくエレガントな雰囲気です。
- 機能
機能面での違いですが、大きな違いはやはりピックアップです。PRSの方は408ピックアップで、凝った作りになっています。専用の形状とエスカッションを備えていて、モダンな外観ですね。オープンハムですが、フロントがミニハムのように幅が狭くなっており、リアは通常のハムバッカーより幅が広いタイプとなっています。これによりフロントは音をフォーカスし、リアはしっかりローも出せる、とのことですね。Nik Huberの方はオリジナルピックアップですが、基本的にヴィンテージPAFを継承したタイプで、カバードハムバッカーです。
そしてコントロール周り。どちらも2ハムでコイルタップ可能なんですが、PRSの方はフロントとリアを別々にコイルタップできるのに対し、Nik Huberは同時にコイルタップする形となります。また、PRSはオープンバックのロックペグ「Phase III Locking Tuners」を採用しているのに対し、Nik HuberはSchallerのスタンダードなペグとなっていました。
ブリッジは両者ラップアラウンド。ですがNik Huberのブリッジは独立サドルのタイプです。
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他に違いは・・・そうそう、ストラップピンも違いました。Nik Huberは最初からSchaller Security Lockが付いているのに対し、PRSはFender ベース用ストリングガイドのような形状の、大きなストラップピンが付いています。
- 操作性
続いて、実際に弾いてみて感じたこと、いわゆる「弾き心地」についてです。
まず最初に述べておきますが、どちらのギターも、恐ろしく弾きやすいです。もちろんネック形状などそれぞれこだわりはあるかと思いますが、そういった好みの部分を差し引いても、プレイアビリティが非常に高いです。
両モデルとも、レスポールと同じ材の組み合わせであることを思い出してください。その上で、どちらも非常に軽量なモデルとなっています。PRSは3.3〜3.4kg程度、Nik Huberは3.2〜3.3kg程度で、ほとんどストラトキャスターと変わらない重さを実現しています。実際に使われる材の違いによりギターの重さは変わりますので、今回弾いたモデルがかなり軽い方だった可能性もありますが、持った感じからとても軽いギターだと感じました。
指板、ネックの演奏性はかなり好みにより違った印象となるかもしれませんが、基本的にどちらも弾きやすいです。個人的な好みもあるかと思いますが、Nik Huberの指板の方が、12F近辺で弾きやすくは感じました。他は同等で、レスポールやストラトなどのクラシックなギターと比べるとどちらも圧倒的に弾きやすいです。
ハイフレットは、PRSがダブルカットなのに対し、Nik Huberはシングルカットですがジョイント部の1〜2弦あたりがヒールカットされています。なのでに握り方次第ですが、どちらも演奏性は非常に高いです。
また、コントロールのポットとノブの違いもあります。PRSは独特の多角形のノブでポットが軽め、Nik Huberはトップハットノブで硬めのポットとなっています。そのため、VolumeやToneを頻繁に回すなら、明らかにPRSの方がやりやすいです。対してVolumeやToneは動いて欲しくないなら、Nik Huberの方が良い、となりそうです。PUの切替スイッチは、今回弾いたモデルはどちらも通常のトグルスイッチでした。位置は少し違いますが、これは特に弾きやすさにおいての違いは感じませんでした。
ボディ裏にはどちらも薄くコンター加工がなされており、フィット感も非常に高いです。ネック裏をはじめ、塗装の触り心地はほぼ同じ、つるつるな感じで、感覚的には非常に似たギターを弾いているように感じました。
- サウンドレポート
最後に音色についてです。まずはPRSの方から。このモデルはおそらく、408ピックアップの特性がけっこう大きなポイントになっていると思います。フロントは通常のフロントハムよりもブライトで、リアは通常のリアハムよりもレンジが広く感じます。基本的にはモダンで使いやすいサウンドで、和音の分離感が非常に強く、歪みペダルと合わせてもアンプ側を歪ませても、どこかにクリアな感じが出ています。またサステインも長く、感覚的に音をコントロールできます。驚いたのがToneを絞った時の5〜6弦のサウンド。非常に立体感があり、そして音が前に突き出してくるようなサウンドでした。全体的に太く、しかしクリアでバランスの取れた音が出せるギターだと思います。
Nik Huberも、音としてはPRSにかなり似ています。しかしサウンドの方向性としてもう少しヴィンテージよりになっていて、たしかにモダンでバランスの取れた音ではあるんですが、PRSと比較すると少しレスポールに近い癖があります。特にリードトーンで、いわゆる「枯れた音」が出るのはNik Huberだと思います。一方でコントローラブルさはPRSに軍配が上がると思いました。サステインの長さは同等、そしてどちらもレスポンスが速いので感覚的にとても弾きやすいです。その中でNik HuberはPRSと比較すると、PRSの方がより小さな違いまで音に反映される感じです。ただ、どちらも非常にハイレベルなところにある中での小さな違いなので、これはもう好みの違いと言って良いのではないかと思いました。
明確に違ったのがコイルタップです。PRSの方はあえてそういう特性にしているというのもあると思うんですが、コイルタップにしても音そのものの特性がほとんど変わらず、出力だけがすこし弱くなるような印象です。なのでコイルタップをしてもリードではほぼ違いが無く、和音を弾いたときにシングルっぽさが付加されるような感じです。これはフロント、リア、ミックス全てで同じ印象でした。
対してNik Huberのコイルタップは、音がかなり変わります。もちろん、あくまでもコイルタップなのでシングルPUそのものの音にはなりません・・・が、普通「コイルタップ」と聞いて思い浮かべる程度のものではなく、明らかにシングルコイルの音に変わります。正直、ここまでちゃんと「シングルに近い音」が出るコイルタップは他に知りません。異次元と言っても良いほどだと思います。もともと、おそらくPAFを意識しているのでハムバッカー時から出力はそれほど高くないのがこの要因かと思います。PRSの方がハム時の出力は高いと思いますので、よりハイゲインなサウンドを出すことができます。
というわけで、Paul Reed Smith Signature LimitedとNik Huber Dolphin IIという、ハイグレードなギターの弾き比べでした。
どちらも非常に派手な見た目のギターで、見るからに高級ギターという感じです。その見た目通り、使われている材のグレードが非常に高いのも、触ればすぐに分かります。そして、ただ材が良いだけでなく、全体的な「組み」が非常に素晴らしいです。がっちりしすぎているわけでもなく、もちろん雑ではない。絶妙のバランスで組み上げられていると感じました。これにはPRSのすごさを感じました。Nik Huberは、小さな工房で作られているモデルということもあり、全てがPRSのPrivate StockやFenderでいうMaster Builderみたいな作りですので、「組みが良い」のは当たり前なんです。しかしPRSは、かなり大きな規模のメーカーで、しかも今回弾いたのは限定のハイグレードモデルではありますが、あくまでレギュラーラインです。もちろんレギュラーラインと言ってもFenderやGibsonの普通のカスタムショップみたいな感じだとは思いますが・・・とはいえそれでこれだけ高いレベルのバランスを取っているというのは素晴らしいことだと思います。
よく、「高価な楽器は弾くのも大変」ということを聞きます。たしかに楽器はそういう側面があり、特にクラシック楽器などのアコースティック楽器にはあてはまることもあるかと思います。ただエレキギターにおいては、一部例外はあるかもしれませんが、基本的に「新品で高価なギターは弾きやすい」んだと思います。弾きやすい上で、そのポテンシャルを最大限に引き出すのは大変だと思います。
今回弾いたモデルは、どちらも間違いなく高級ギターです。ただ、実際に弾いてみての感想は「エレキギターって安いな」というものでした。例えばピアノは、グランドピアノの最高級モデルは数千万、アップライトでも数百万です。ヴァイオリンも言うに及ばず、クラシックで使われるような楽器に於いて、今回弾いたようなギターの価格帯は「通常モデル」にすぎません。アコースティックギターはもう少し安いですが、それでもエレキギターより全体の価格帯は上になります。例えばエレキギターでは、特価ではない実売で25〜30万を超えると、ギターの作りから何から、世界が変わります。アコースティックギターは、そのラインが40万円程度、高級モデルで100万を超えるのも珍しくありません。
そう考えると、今回弾いたNik Huberはおそらく、定価があるとすれば100万円を少し超えるくらいだと思います。エレキギターに於いてその価格は超高級ギターと言えるレベルになりますが、逆に言うと100万円で世界でも最高級クラスのものが買える楽器だということなわけですね。そう考えると、エレキギターって安いんだなと思いました。
実際に触ってみるとわかりますが、一般に「良いギター」と言われる、20万円前後のギター・・・それらのギターが素晴らしいのはもちろんですが、今回弾いたものはそのクラスのものとは明らかに「違うもの」でした。それが良いか悪いか、好きか嫌いかは別です。そういう好みは別として、こういったハイエンドクラスのギターにも触ってみる、その経験をする、というのは本当に重要なことなんだと思いました。それを知った上で、自分の好きなギター、自分にあったギターを考えると、より深みのある結論が出せるのかも知れないと思いました。
非常に貴重な経験ができました。素晴らしいギターを作ってくれたPRSとNik Huberに感謝したいと思います。
PRS Signature Limitedのサンプルムービー
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PRS Signature LimitedとPRS 408 Standardの違い
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