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当サイトの内容を説明文等に使用している楽器店さんがあるようですが、一切関係がありません。

もう1度、“MDR-CD900ST”を考えてみる

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レコーディングスタジオを中心に、日本のレコーディング現場で最も定番となっているモニターヘッドフォン、SONY MDR-CD900ST

このヘッドフォンについては、以前にも記事を書いたりしました。
toy-love.hatenablog.com

ヘッドフォンは、楽曲制作に無くてはならないものと言えると思います。もちろん生音は全部ラインで録って、Voはボカロでってやれば全部スピーカーだけでカバーすることもできますが、結局どこかの場面で必要になりますし、特に日本だと個人で音楽を作るなら必須と言えます。
モニターヘッドフォン。そのジャンルに於いて、こと日本では圧倒的な知名度を持ち、使用者も伝説も賛否も圧倒的なこのヘッドフォン。今後ヘッドフォン関係の記事を音楽制作の視点から書いたりする上でも、このMDR-CD900STの立ち位置を明確にしておきたいと思います。
もう一度このヘッドフォンに向き合って、これが一体何なのかを考えてみましょう。

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この伝説となっているヘッドフォンは、現在も日本国内全般のスタジオで使用され続けています。実際にアーティストがそれを耳に付けてレコーディングを行ったり、ラジオの配信などでも使用されていることから、ヘッドフォンとしてはメディア露出も圧倒的に多いものとなっています。
MDR-CD900ST
MDR-CD900STは、もともと1985年に発売された“MDR-CD900”というヘッドフォンがベースとなっています。このMDR-CD900、業務用ではなく民生機、つまり一般のリスニング用として発売されました。

1982年に音楽CDが発売され、それまでのアナログレコードやカセットテープがデジタルのCDに置き換えられてきた1985年、「CDの音質をそのまま再現する」ことを目的として作られたヘッドフォンでした。当時のMDR-CD900のヘッドバンドには“DIGITAL MONITOR”の文字が入れられ、当時最先端の「デジタル音質」を楽しむヘッドフォンだったと同時に、当時のスタジオ向けモニターヘッドフォンとして使われることも想定したものだったことが伺えます。

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MDR-CD900STの場合「STUDIO MONITOR」と書かれています。

デジタルのCDになって、それ以前のアナログ音源との違いはいろいろありますが、音の解像度等はもちろん、なによりもノイズレベルが最大の違い。アナログレコードって再生時のノイズがあります(あえて今の音源にノスタルジックさを求めて追加することもありますよね)。また、ヘッドフォンに使われる素材…マグネットや振動板もどんどん小型化が実現していった時代に生まれたのがMDR-CD900というヘッドフォンでした。

参考
yamais.net
www.sony.jp


そのヘッドフォンをベースとして、当時のCBSソニー信濃町スタジオ(現ソニー・ミュージックスタジオ)での使用を想定として、ソニーとソニー・ミュージックスタジオの共同で開発されたのが、MDR-CD900STです。
ケーブル(ストレートとカールコード)やハウジング光沢の違い、折りたたみ機構の有無などの違いを含みますが、音自体にも違いがあり、より低音のキレが良い等、スタジオ向けのチューニングが施されたのが、“MDR-CD900CBS”というモデルです。
これはCBSソニー信濃町スタジオ専用チューニングとして作られたもので、1988年に完成。そのヘッドフォンがほしいという声が多くなり、1989年に業務用としてMDR-CD900STが販売され始めます。
そして、実際にスタジオでの様子やラジオの収録などに使用されている様子が知られるようになり、1995年に一般販売が開始されました。

長い期間に渡り制作、販売されているので、実は時期により細かいパーツの違いはありますが、構造上や音色上のアップデートは「一切行われていない」ということです。なので基本的に1988年のスタジオで使用されはじめたときのままの音を聴くことができる、ということになります。

参考
e-earphone.blog


さて、そんなMDR-CD900ST、間違いなく優秀なヘッドフォンです。業務用機器のため高級感のあるものではありませんが、ちょっと写真を撮ってみてもどこかオーラがあるような雰囲気を感じる、それはこれらの伝説に裏打ちされたものであることは間違いありません。

ところが、伝説というのは厄介なもので、悪意なき誤解が生まれ、いつしか定着してしまうことがあります。

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MDR-CD900STの発売までの過程や時期、状況などを考えると、これはそもそも当時最先端だった「デジタルレコーディング」の音を聞き漏らさないよう、できる限りの音を拾うために設計されたものがベースにあり、それを音楽制作現場…DTMとかじゃなく生録がメインの現場で使いやすいよう調整されたもの、だろうということが想定できます。

つまり、「どんな音も聞き漏らさない」ことを目標に、レコーディング時の細かなチェック用途が最も多い使い方であると言うのは以前も述べたとおりです。

また、MDR-CD900STの特性として、「ヘッドフォンを付けたままで歌いやすい」という点があります。上記のチェック用としてはもちろん、ヴォーカルレコーディングとして使いやすいよう開発時に調整が行われたであろうということが想像できます。

ところが、「実際にアーティストがレコーディングに使用している」という「真実」がよく知られるようになると、そこから悪意なき誤解が生まれてしまったりします。
例えば、これはウェブ上で見かけたレビューに書かれていた内容の一端です。


音のリファレンスはMDR-CD900ST
リファレンスとは、お手本ということですが、ここで言われているのは、様々な音源の比較をMDR-CD900STを通して行っている、というもの。
というか、“プロアーティスト”の頭の中にはMDR-CD900STで聞いた様々な音源の音があり、それを元に自分の音も作っている、みたいな……
そんなわけない。

MDR-CD900STが「自分の標準」となっている人…プロアマ、アーティストリスナー関わらず、そういう人がいることは間違いないでしょう。でも、「プロは誰もがそうなんだ」というのはおかしな話です。

唯一、上記のヴォーカルレコーディングにおける「レコーディング時の音の返り」として常に同じものが求められることはあります。ヴォーカルは肉声が楽器なので、返りが変わると歌い方が変わってしまうことがあります。そのため、「国内のスタジオでヴォーカルを録る際の返し」としてはたしかに一定のリファレンスの役割はあると言えると思います。

MDR-CD900STで音を作っているから、アーティストが求めた音に最も近い
意味が分からない。MDR-CD900STでまともに「音作り」をするのが至難の業であることは、使ったことがあればわかると思います。
後からの確認用としては非常に優秀で、正直「MDR-CD900STでバランスが悪ければだいたいどこかがおかしい」ということはかなりあります。が、そもそもの音を作る際に使われるのはあまり無いと思います。

これが「フラット」な音
さすがにちゃんと音を聞いて考えて欲しい…。MDR-CD900STは周波数的な再生能力は悪くありませんが、中域が主に前に出て、低域は少し弱め、高域は強めの特性があります。
まぁただ、これこそがフラットだと「信じて」しまうほど、伝説の持つ力がすごいということでもあります。

DTMに最適
一番厄介な勘違いを産むもの。まぁ正直、MDR-CD900STをリスニングに使って「これぞプロの音」と思ってもいいし、「他で聞こえない音が聞こえる」と感動するのも楽しいものです。
ところが……まぁ最近は相当フラットな情報が出るようになってきてはいるんですけど、まだまだ「DTMに最適なヘッドフォン」でMDR-CD900STが紹介されています。
ですが、リスニング用途ではなく音楽制作の視点から見て、このヘッドフォンを持っていれば大丈夫、とはならないんですよね。

前述のとおり、MDR-CD900STはレコーディングモニター、特にヴォーカルレコーディングのモニターとしては非常に優秀です。なので、実は「歌ってみた用ヘッドフォン」としてはとても良い選択だと思います。
また、ラジオ収録などにも使われていることから、配信などをする際のモニターとしてもとても良いと思います。

そして、どうやらそのヴォーカルレコーディングを中心に、スタジオで使いやすいよう調整されたためか、特に歌モノ(ボカロでもいい)の楽曲に関して言うと、「ミックスの変なところを見つけるのに最適」とも言えます。

だから、DTMというか、楽曲制作を行うなら「持っていて損はない」どころか「持っていると良い」ヘッドフォンなのは確かなんです。MDR-CD900STって。

特に歌モノで重要な中域…つまりヴォーカルが前に出てくる帯域が精密に聞けるので、他のヘッドフォンやスピーカーで気が付かなかった「変な共振」を発見したりすることもあります。
つまり、レコーディング時のモニターとして、および、作ったものを「後から」確認するものとして、MDR-CD900STはとても優秀です。

MDR-CD900ST

MDR-CD900STの業務機として、長年に渡りスタンダードの地位を保ち続ける、その実績は間違いないもの。なぜなら、使い方を間違わなければ本当に優秀なものだからです。

また、相反することを言うようですが、ヘッドフォンはヘッドフォンでしかないので、好きに使ってももちろん良いのです。だから、「自分はこれが一番曲作りに使いやすいし、ミックスまで全部できる」という人を否定するつもりはありません。

ただ、「向き」がある。プロがスタジオのレコーディングで「使っているから」、MDR-CD900STは「DTMにも最適」と書いてしまうと、そこには論理の飛躍があるよね、ということなんです。

どういうことかというと・・・
音作りには向いていない
出来ないとは言いません。が、ギターやシンセなどの音を作る際、そしてミックスで音を整える際、MDR-CD900STを使って行うと、後からスピーカーで聞いた時に「あれ?」となることがあります。なぜかというと、それ向きではないから。
基本的に、音作りやミックスでの音色を整える際にはスピーカーを使います。ヘッドフォンだけで全てカバーできることがあれば最高なんですけど、なかなかそうはいかないんですよね。爆音でなくても良いからスピーカーを鳴らして音を作り、それを後からヘッドフォンでも確認する、という流れが最もやりやすいと思います。

ただし、すでに作った音を使って曲を形にしていく(打ち込みや録音をする)際には全く問題なく使えます。つまり「音作り」には向いていませんが、「曲作り」にはいけます。

ミックス作業にも向いていない
楽曲をミックスする際、最も重要なのは音量バランスと定位です。上記のとおり音色自体を整えたり調整するのにもあまり向いていませんが、そもそも定位を見る上でも、音量のバランスを見る上でも、MDR-CD900STを使って行うのはとても難しいです。
MDR-CD900STは、様々なパートの音がとにかく近くに聞こえます。近くに聞こえるということは、まず定位が見にくくなります。例えばステージをイメージして、真ん中にVoとDr、Ba、左右にGtがある形をイメージした際、その並びがしっかりと見えるのはステージ最前よりも少し離れたところ、というのは感覚的に分かると思います。音量についても同様で、MDR-CD900STでバランスを決めていくのはとても難しいのです。

逆に、音が近くに聞こえる、しかもヴォーカルの帯域が基本的に前に出やすいという特性があるためか、「バランスの悪いミックス」になっている時はすぐに「ここが悪い」と分かります。スピーカーで問題なく完成したミックスは、MDR-CD900STで聞いてもバランスは悪くなりません。
なので、ミックスを行う上での確認用、「修正点を見つけるため」にMDR-CD900STはとても「使える」ヘッドフォンです。具体的には、例えばヴォーカルとギターの音がある瞬間に被って変なレゾナンスを出している場合。いわゆる音かぶりですね。そういうのを発見するのには最適です。
ちなみに修正点を見つけたときは、まずMDR-CD900STのままピンポイントで(例えば音かぶりなら、その瞬間だけ片方のパートの音量を下げたりEQを入れたりして)修正をかけ、その後しばらく時間を置いてからスピーカーで確認する、というのが私の場合の流れです。

正解がないから楽しい
これはしばしば見かけるんですけど、なぜか手っ取り早く、しかも「安価に」正解が欲しいと考えることがあるようです。
そして確かに、そういうものがある場合もあるかもしれません。ですが、もしそんな「正解」があるのだとしたら、そのジャンルってそれ以上発展しなくないですか?

MDR-CD900STはたしかに、日本のスタジオを席巻し、標準の地位となっています。しかも手頃に買うことができます。これを「正解」だと考え、場合によっては「信仰」に近いところまでいってしまう人がいる…のも分からないではありません。だからこそ、ちょっと離れたところから見る視点があると良いと思います。

ギターアンプにRoland JC-120という名機があります。これは日本中のスタジオに装備される標準アンプであり、日本でスタジオに入ったギタリストであれば、ほぼすべてがその音を経験しています。
では、JC-120の音こそギターサウンドの標準か、というと違いますよね。むしろJC-120をメインアンプにしているギタリストはどちらかといえば珍しいです。
もちろん例としては少し違うというのは確かですが、MDR-CD900STも同様に、「スタジオ標準」であるということと「それこそが正解」というのは違っているわけです。


モニタリングヘッドフォンは膨大な数があります。5000円代で売っているものから数十万円のものまで。DSPで実際のスタジオを再現するものもあれば、ひたすら“フラット”を目指すものなど様々。レコーディングモニターはもちろん、ミックスやマスタリング作業用として作られているものもあります。
なぜこれほどいろいろなものが発売されているのか。それは「正解がないから」だと思います。
正解がないというのは、正解にたどり着いていないという意味ではなく、正解になりうるものがたくさんあり、場合により求められるものが異なるという意味です。
だからこそ、楽しいと思います。
非常に優秀なヘッドフォンとして、そして「このように使うと良い」という例をもって、MDR-CD900STを推奨するのはとても良い。
ですが、その実力を理解せず、それを逸脱して万能機のように考えていたり、逆にその実力の方向性を理解せず、必要以上に貶したりすることは避けたいかなと思います。
だからこそ、「これはこのようにして使うととても良かった」という感想や推奨は素晴らしい。でも、「これ1つあればOK」とはなかなかならないのが現状です。スタートアップとして使うのは悪くありません。が、これはどんな場合にも言える「ゴール」とはならないことは確かだと思います。

1本のヘッドフォンでこれだけのことが書けることからも分かる通り、MDR-CD900ST、大好きです。大好きだから、その使い方をきちんと理解して使ってほしいと思います。
 
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