ですが、一般的に「マスタービルダー」と単に呼ばれる場合、あるメーカーの役職を指すことが多いです。
Fender Custom Shop。
通常、カスタムショップやカスタムラインというと、特別なオーダーを受け付ける部門だったり、希少な材を用いた特別なモデルや試作的なモデルを制作する部門であることが多いですが、Fender Custom Shopは、設立の過程から少し異なっています。
Fender Custom Shopの設立は1987年。70年代後期~80年代ごろのFenderは、当時の音楽シーンのヘヴィなトーンへの流行りによるSuperstrat系モデル(ディンキーとか)の流行や、日本メーカーによる「正確な」ヴィンテージレプリカモデルの台頭により、Fender本家モデルの人気が低下していました。
危機感を覚えたFenderは、日本のFujigenと共同で、ヴィンテージモデルの復刻を行います。そして1982年に発売されたVintageシリーズは人気となりました。
そのVintageシリーズ制作に関わったスタッフを集めて1985年ごろから準備を始め、1987年に別部署としてFender Custom Shopが設立されました。
その経緯から、Fender Custom Shopは設立当初からヴィンテージモデルの復刻や、かつてのアーティストが使用したモデルを再現するモデルを中心に制作されるようになりました。もちろん多くのメーカー同様、オーダーによる特別なモデルの制作もカスタムショップの役割です。
ちなみにGibson Custom Shopは1991年設立、こちらは主にオーダーモデルを中心としたラインナップから始まり、1993年に初めて59レスポールリイシューが発売されて以降ヴィンテージモデルのリイシューも行うようになりました。
Fender Custom Shopには、マスタービルダーという役職があります。(かつてGibsonにもありましたが、今はないみたいです。)
マスタービルダーは、そんなカスタムショップの中で特に優れたルシアーに与えられるという役職です。設立当初のマスタービルダーと今のマスタービルダーは多少形態が変わったりしているみたいですが・・・現在のマスタービルダーは自身の名を冠してギター全体を一人で制作することができます。通称マスビルと呼ばれるMasterbuilt Seriesですね。また、他のルシアーへの教育も行うビルダーはシニアマスタービルダーと呼ばれます。
今のマスタービルダーは、こちらから確認することができますね。
そんなマスタービルダーですが、もちろん生涯Fender Custom Shopに在籍するわけではありません。Fender Custom Shopを退職した後、自身のメーカーを始めるルシアーも居ます。今回はそんな、「元マスタービルダー」が立ち上げたメーカーで、現在日本で販売されているメーカーをまとめてみたいと思います。
b3 Guitars
John Cruz Custom Guitars
John Page Classic
J.W.Black Guitars
本人は2019年に引退を表明。2020~21年ごろまでは制作を行っていたようですが、現在はUSA製のものが入って来ていない感じです。なお、日本製モデルもあり、そちらはSugi GuitarsがOEMにて生産しています。
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Mark Kendrick Design
Mark Kendrickは、叔父がレオ・フェンダーの下、アーティストと関わる仕事をしていたことから、Fenderとは近い位置にいました。1976年にMusic Manのキャビネットショップに、その後Fortuneでギターの制作、G&Lを経て、1991年にFenderに入社。2009年にFender Mexico工場の品質管理アドバイザー、インストラクターとなった後、2015年にFenderを退社し、2016年にMark Kendrick Designのエフェクターを発売しました。
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2021年NAMM SHOWにて、ついにギターの製造を発表しましたが、2022年、Mark Kendrick本人がFenderに復帰することとなり、全製品が生産完了となっています。今販売されているものは今後非常に希少なものとなります。
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Stuart Fine Custom Instruments
退社後、かのTwested Teleピックアップを制作したことでも知られるマスタービルダーAlan Hamelと共に設立したA&F Custom Guitar Serviceを経て、2003年に本ブランドを設立しました。その後ギターやピックアップを発売していて、今はほとんどがピックアップの制作となっています。なのでギターはかなりレアです。
Suhr
1974年~76年、ハイスクール時代、バンドを組んでいて、ギターのカスタムを近所に住んでいたジャズギタールシアー、Robert Benedetto(Benedetto Guitars)にネック制作を依頼、その手際から師事したいと申し出るものの断られ、自分でギターモディファイを行っていたということです。その後ニュージャージーの楽器店、からニューヨークではコックをしたりしていたJohn SuhrはNYのRudy’s Music Stopにリペアマンとして務めます。Rudy’s Music Stopは当時の実質的なSchector Custom Shopでもあり、後のWarmothのパーツを組み合わせたギター(すなわちコンポーネントギター)を制作していました。1984年にSchector Custom Shopでの生産が終わり、Ruby's Music Shopのパーツと、Schectorを退社・独立したTom Andersonのボディを組み合わせ、Ruby's Music ShopオリジナルブランドPensa-Suhrとしてギターを販売しました。また、並行してアンプを学び、自身でモディファイしたアンプをCAEのボブ・ブラッドショーに送り、高い評価を得て1991年にCAE(CAA)に入社、OD100アンプの開発などを行います。
1993年にFender Custom Shopに入社。シニアマスタービルダーとなり、電装系の知識や経験、コンポーネントギターの経験などをFender Custom Shopに伝えました。97年、FenderにてCNCルーターのエンジニアを務めていたスティーブ・スミスと共にSuhr Guitarsを設立しました。Suhrの、クラシックなスタイルから少し小ぶりにしたボディやネック形状は、Fender Custom Shopで発売したいと考え、他のマスタービルダーと意見が合わなかったスタイルだったりします。
多岐にわたる広い経験から、現在のSuhr Guitarsはギター、アンプ、エフェクター、ピックアップなど全てをカバーする総合楽器メーカーとして世界的なメーカーとなっています。
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Sugi Guitars
冒頭に述べたとおり、FenderはFujigenと共同でヴィンテージシリーズを制作、それがカスタムショップの基盤となっています。その時にフジゲンから出向したチームの一人が杉本眞氏でした。その後Custom Shopで技術アドバイザーも行っていたということです。
現在Sugi Guitarsは多くのアーティストのギターやハイエンドモデルをはじめ、J.W.BlackやIbanez j.customシリーズのOEM制作なども行う日本を代表するハイエンドギターメーカーとなっています。
- 日本人マスタービルダーっているの?
ちなみにここまで見てきて、日本人のマスタービルダーっているのかなと感じることもあるかと思いましたが、日本人のマスタービルダーもいます。岩撫 安彦氏。1973年、大学在籍中にグループサウンズ、ブーメランのギタリストとしてデビューした経験があり、1979年に自身のブランドGuitarixを設立。1987年、できたばかりのFender Custom Shopにマスタービルダーとして入社し、1993年に退社、帰国。1994年には当時Fender代理店の山野楽器とFender Custom Shop日本企画監修を行いました。
2002年に自身のブランドTone Artsを興しますが、2003年にはGibsonに入社し、国際営業部長を務め、2007年からはGibson Japan社長を務めています。
ということで、いろいろな元マスタービルダーのブランドや、マスタービルダーの歴史などを見てみました。それぞれいろいろな歴史などがあって、見てると面白いです。もちろん上質な楽器を作る職人であることと、メーカーを運営するというのはまた違った能力が必要なので、ブランドとして上手くいくかどうかはまた別。すでに終了してしまったブランドなどもあったりしますが、それぞれ大メーカーのフラッグシップを経験した職人が独立したブランドはどれも個性もあって楽しいですね。
Suhrの安定感、話題のJohn Cruzなどもいろいろ触ってみたいギターですね。
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