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当サイトの内容を説明文等に使用している楽器店さんがあるようですが、一切関係がありません。

ストラトキャスターのボディシェイプの話


1954年に発売されて以来、多少の浮き沈みはありつつも定番で扱いやすいギターとして人気のFender Stratocaster

人間工学という言葉がおそらくまだなかった時代に、演奏性を考慮して作られたそのギターは、今でも「エレキギター」を代表するスタイルのモデルとなっています。
ダブルカッタウェイ、コンター加工、シンクロナイズドトレモロ、3ピックアップ。そのすべてが汎用性の高さを重視した作りだったと言えると思います。
ストラトといえば今はシングルコイルサウンドを代表するものですが、現在のハムバッカーが完成し製品に搭載されたのが1957年ですから、54年当時には単にピックアップを3つ付ける=最も汎用性を高めたという意味でした。シンクロナイズドトレモロはハワイアンやカントリーミュージックでプレイすることを想定したもの。つまり、当時一般的だった音楽シーンのために作られたギターだったわけです。

実際、その時代の音楽が古くなり、新たにサーフミュージックなどが人気になると、ストラトキャスターの人気は下がり、フェンダーのフラッグシップモデルはJaguarになります。
CBS社がFenderを買収した1965年ごろにはストラトキャスターの人気は衰え、生産完了の検討もされたと言われています。
ストラトキャスターが再び輝くのはそのすぐ後、1966年にJimi Hendrix Experienceがデビュー。ジミ・ヘンドリックスはそれまでカントリーやハワイアン向けの「時代遅れ」のギターだったストラトキャスターで当時考えられなかったような演奏を見せます。
そこからエリック・クラプトンジェフ・ベックがストラトキャスターを使い始め、時を経てリッチー・ブラックモアイングヴェイ・マルムスティーンなど多くのギタリストが使用するようになり、定番のモデルとしての地位を確立します。

なぜストラトの話をしているのかというと、あれです。
2026年3月10日、ドイツ、デュッセルドルフ地方裁判所にてある判決が出ました。

ストラトキャスターの「ボディ形状」を用いたギターをドイツおよびEUで製造、販売、流通することに対し、フェンダーが法的措置を取ることができる、というもの。

正直、オリジナルの判決を見たわけではないですし、(見ても分からんし)Fender Music社のプレスリリースを元にした内容ですので、細かいところなどは間違いもあるかもしれませんが、基本的にそういう内容のようです。

prtimes.jp

元々、中国のYiwu Philharmonic Musical Instruments Co.が製造するストラトタイプがAliexpressで販売されていることが元となっています。

これは稀に見かける「中国製の明確な偽物」ではなく、一般的なエントリー向けストラトタイプのギターです。

これが、Yiwu Philharmonic Musical Instruments Co.が製造するストラトタイプ。IRINというブランドで販売されています。

これが、ストラトキャスターのボディデザインを違法に複製していると認めたものです。ストラトキャスターのボディデザインは応用美術の著作物にあたる、という判断ですね。

応用美術というのは、純粋なアート作品ではなく、実用性のあるもの、例えば椅子とか車とかそういうものに美術性があるというもので、それにもちゃんと著作権を認めましょうということです。かつては意匠権という形でしか認められていなかったものですね。
意匠権とは工業デザインのための権利で、意匠登録をする必要があり、さらに権利の期間も長くはありません。
著作権は、特別な登録の必要はなく、権利の期間も長くなります。
ストラトキャスターというギターにはそれが認められた、というのが今回の判決です。

この判決が、日本でギターに即座に影響するかというと、そういうわけではありません。前述のとおり、現時点ではEU圏内のみでYiwu Philharmonic Musical Instruments Co.のギターの販売ができなくなる、というのが今のところの形です。

ただ、今後いわゆる「ストラトキャスタータイプ」としてストラトキャスターの形状をコピーしたものの製造や開発に何らかの影響があることは考えられます。
判決は判決として、この方向には様々な立場、様々な意見があると思います。

  • 「コピーモデル」がギターを発展させてきた

という意見があります。それは一つの側面としては正確だと思います。
なぜなら、かつて「本物」のアメリカ製ギターはなかなか手が届かないものだったからです。

一つ例を見てみましょう。ストラトキャスターではありませんが…鮎川誠が長年連れ添ったレスポールカスタムがあります。これは1970年、鮎川誠の友人が購入した、1969年製のGibson Les Paul Customです。
当時、ギブソンのレスポールカスタムを購入する、それも学生が購入するというのはとんでもないことだったと言います。
1969年、ギブソンのレスポールカスタムの希望小売価格は$575でした。当時の日本は固定相場制でUSD1=JPY360でしたから、単純計算すると¥207,000です。
20万ならまぁ普通だな、と思うかもしれませんが、物価が異なります。当時の大卒初任給平均は3万円ほど。現在はその6~8倍程度が一般的ですから、それを考慮すると、当時のレスポールカスタムの価格は現在の価格だと120~160万円ほどになります。マーフィーラボの1959とかPRSのプライベートストックみたいな価格帯ですね。

マーフィーラボやPRSプライベートストックは、今なら「趣味性の強いギター」という立ち位置で見ることができますが、それが「唯一の本物」だった時代、ギブソンギターやフェンダーギターへの憧れはどれほどのものだったのか、実感はできませんが想像はできると思います。

そんな珠玉の宝石のようなギターに憧れた多くの人が、「それに似たイミテーション」を求めるのは理解ができます。しかも宝石とかアートではなく工業製品ですから、似た形で音が出れば使うこともできるわけです。

当時、日本メーカーが特に中心となり、フェンダーやギブソンギターのコピーモデルが多数販売されました。日本のギターメーカーが作ったコピーモデルの方が、フェンダーの製品よりもオリジナルモデルの形状に忠実になったりすることもあったという話も聞きますね。

フェンダーは、当時それらの日本メーカーを取り込む方向で動きました。正確にヴィンテージモデルの形状を再現する日本メーカーの助言を取り入れ、フェンダーオリジナルモデルの製品の質を高めることに成功します。ただし、一方で明らかに商標権を無視していた日本のメーカーにはちゃんと訴訟も起こしていて、その後の日本メーカー側も商標権には気を遣うようになりました。

このように、かつてフェンダーとコピーモデルは軋轢もありつつ、多少黙認もありつつ、といったような状態でした。そういう意味では、コピーモデルがギター文化を育てたという側面は確かにあります。

しかし、(後に多少の貢献をしたとはいえ)本来はフェンダーが持っているそのデザインにタダ乗りし、オリジナルデザインを放棄してコピーモデルを販売してきた、というのもまた一つの側面だと思います。これはフェンダー社から見れば不当なものだったと言えるでしょう。

  • コピーモデルがないと初心者が手にすることができない

たしかにかつてはそうでした。
しかし、現在はSquierもあります。MIJもあります。
実際、フェンダーほどギター初心者からハイエンドまで幅広く製品をラインナップしているメーカーは他にありません。

もちろん、「コピーモデル」があるのとないのとでは、ある方が選択肢は広がります。より細かなスペックなどいろいろな選び方ができるのはたしかですが、それがフェンダーの権利を侵害している面があることも確かかもしれません。

  • ヘッド形状とボディ形状

これまでも、ギターのヘッド形状については、完全コピーするのは権利の侵害とされてきました。今回の訴訟ではボディ形状がその対象となったことが大きなポイントです。

  • 「どこまで」が対象なのか

正直言って分かりません。しかし、それが今後の大きなポイントとなってくることは想像に難くありません。例えば…


このモデルは、明らかにストラトキャスタータイプのシェイプです。しかし、アウトプットジャックが側面にあり、ストラトキャスターの外観とは異なっていると見ることもできます。


かつて「本家より正確なコピーモデル」を制作していたとして逆に助言をすることになったフジゲン。低価格モデルではストラトまんまのモデルもありますが、上位モデルではオリジナリティが加わります。ピックガード形状やアウトプット・ジャック位置などが異なっています。


楽器メーカーとしての大きさならフェンダーを超える規模のヤマハのギター。ストラトキャスターに影響されたことは一目で分かるデザインですが、ピックガード形状をはじめ、ストラトキャスターとは異なるシェイプと言うこともできます。


こちらも日本を代表するギターメーカーの1つ、アイバニーズのストラトキャスター系モデル。オリジナルストラトキャスターよりも細身なボディシェイプ、オリジナルとは異なるピックガード、ジャック位置です。


ブランド立ち上げにレオ・フェンダーも関わったMusicman。このCUTLASSはレオ・フェンダーがMusicmanから離れてG&Lを設立した後に発売されたモデルですが、ストラトキャスター系のスタイルでありながらボディシェイプやピックガード形状などがストラトキャスターとは異なっています。

いくつか例を挙げてみましたが、これらがどこまでOKでどこからNGなのか、ということが今のところわからないのが難しいところですね。
例えば「ボディ形状」という言葉が、本当のボディの形、つまりシルエットが同じ(またはほぼ同じ)ならNG、というような厳しいものなのか、舟形ジャックが側面ジャックになっていれば別デザインというような感じなのか、それとも舟形ジャックでストラトタイプであっても、ストラトキャスターとは別の製品であることがどこかで分かればOKなのかなど、いろいろな可能性が考えられます。

今後どうなるのかは全くの不透明です。といって、フェンダーも独裁政治のような監視体制を敷いたりしたいわけではなく、あまりに酷いところはだめですよ、というような立ち位置のようなので、そこまで大きく影響しないだろうというのが個人的な感覚ではあるんですが、正直分からん、という方がより大きいです。

  • オリジナルシェイプに敬意を

まず、ユーザーやプレイヤーがコピーモデルや、ストラトキャスター的なスタイルのギターを使ったり気に入ったりすることは何も悪くありません。
そこだけは間違えてはいけない。「そのギター、コピーモデルだから違法だよ」みたいなことを言ったり、馬鹿にしたりすることはやってはいけません。

一方で、ストラトキャスタータイプはストラトキャスターがあってこそ生まれたということもやはり忘れてはいけないと思います。そして、ストラトキャスターに限らず、「メーカーオリジナルシェイプ」のギターを改めて見つめ直してみるのも良いのかもしれません。

これは個人的なもので、人に押し付ける気はありませんが、私自身はギターはメーカーオリジナルシェイプのものを積極的に買いたいと思っています。そこは個人的な思いとして持っていたいと思います。
 
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