少し前の話です。友人が、Epiphone Les Paul Standardを購入しました。
私が初めて買ったギターはGretschがFender傘下になる前のElectromatic by Gretschのレスポールタイプで、「Pro Jet」というモデル(今のGretsch Electromatic Pro Jetになる前のモデル。レスポールコピーモデルでした。)でしたが、そのギターは当時はわからなかったんですが今考えると非常にチープな作りのモデルでした。
しかし、「今の」ミドルクラスのギターであるEpiphone Les Paul Standardは、私が昔使っていたPro Jetよりも低価格ながら作りもしっかりしていて、今のクオリティはすごいなと感心したものです。
で、その辺りのクラスのギターに少し興味が出てきたところで、発売されたモデルがこちらです。
最近出てきたハイスペックなミドルクラスのギターはどんな感じだろうということで、実際に手に取ってみることにしました。さっそくレビューしてみたいと思います。
Spear Claymore Flame -Happy Gacky Special-
こちらが、そのギターです。カラーはハニーバースト、フレイムトップのモデルですね。一見レスポールスタンダードのコピーモデルに見えますが、指板のインレイやバインディング等にレスポールカスタムの風合いも取り入れたモデルです。
簡単にスペックをまとめておくと、フレイムメイプルトップ、マホガニーバックのボディにマホガニーセットネック、指板はアーティフィカルエボニーという、樹脂を木材を重ねた多層式の指板を採用。ピックアップはフロントにSeymour Duncan SH-1、リアにSeymour Duncan SH-4を搭載。ストップテイルピース+TOMタイプのブリッジで、ロックペグが付いています。コントロールは2Vol、2Tone、3Wayセレクターで、2つのヴォリュームコントロールを引き上げるとフロント、リアそれぞれを個別にコイルタップできるというスタイルとなっています。
詳細見てみましょう。
こちらがヘッドです。ブランドロゴと、Claymoreシリーズ共通のインレイが入っています。ヘッドの形状はEpiphoneに近い雰囲気ですね。中央のインレイはかなり複雑な模様を作るパーロイドインレイで、実物を見ると意外に高級感もある感じです。
ヘッド裏。シリアルナンバー等が記載されています。製作はインドネシア。IbanezやSchecterのギターなども製作する工場で作られているということですね。ペグがロック式になっていて、ヘッド裏の部分でロックすることができるようになっています。
独特の「アーティフィカルエボニー」指板。多層構造ということですが、表からでは分からない感じです。普通のエボニー指板に見えます。
ネック形状はいわゆるカマボコタイプで、Gibsonのスリムテーパーに近い感じです。ほんの少しだけこちらの方が薄いかな、という感じはしますね。ボリュート付です。
ピックアップ。Seymour Duncan SH-1とSeymour Duncan SH-4が並びます。どちらもオープンハムです。
ブリッジはスタンダードなストップテイルピース+TOMタイプ。ハードウェアはゴールドカラーです。このあたりもレスポールカスタム風な感じですね。
コントロールノブ。通常のレスポール同様2V2Tスタイルです。2つのヴォルームノブはPush/Pullタイプとなっていて、引き上げるとコイルタップが可能です。
PU切替スイッチ。3Wayの切替スイッチで、通常のレスポール同様、ボディエッジ側がフロント、ボディ中心側がリアPUとなります。
ボディの側面と裏はブラックカラーです。ボディトップだけでなくボディバックにもバインディングが巻かれており、この点もレスポールカスタムの形を踏襲していることが分かります。
コントロールキャビティ
スイッチのキャビディ
価格帯が安いこともあって、当然ですが高級な部品は使われていません。非常に普通の作りです。
ネックジョイント部。クラシックなレスポール同様のセットネック方式となっています。
なかなか良いと思ったのが、このストラップピンです。キノコ型と言えばいいのかな、傘のようになっているので、ストラップが外れにくいように設計されています。これは多くのメーカーに採用して欲しいところですね。
重量は3.6kg。軽いです。生音やボディの音などを聞いてもチェンバード構造ではなさそうですが、この軽さは非常に使いやすいポイントですね。
では、せっかくですので、他のギターと比較してみましょう。
「Gibson CUSTOM SHOP Custom Collection Les Paul Custom」です。現行の本家レスポールカスタムですね。今回のギターはレスポールカスタムに近い形なので、比較対象としても良い感じだと思います。
一見わかりにくい点ですが、バインディング。似ているといってもやはり違いがあります。見てみると分かるとおり、本家Les Paul Customは7層、Spearは6層となっています。また、ちょっとよく見てもらうと分かるんですが、Spearの方、バインディングのさらに内側に色が変わっているところがあるのが分かるでしょうか。
実はこれ、トップ材とボディ材の継ぎ目です。どういうことかというと、このギターはカーブドトップですよね。そのカーブの部分はトップのフレイムメイプル材となっているんですが、そのフレイムメイプルの厚みが薄いので、ボディのエッジ部はオールマホガニーになっているということですね。とはいっても、このクラスのギターではトップ材は薄い材を貼り付けただけのものもありますし、場合によってはフレイムメイプルのフレイムがプリントとなっているものもあります。そう考えると、この価格帯の中ではかなりがんばっている方だと言えるかと思います。
ちなみに・・・
同じフレイムメイプルトップ、マホガニーバックのボディを持つ「Ibanez RG8420ZD」と比べてみると、トップのフレイムの厚みの違いが歴然としています。Ibanezはナチュラルバインディングで、バインディングに見える部分の厚みがすべてフレイムメイプル、一方でSpearはボディエッジ部からもりあがるカーブドトップの部分のみがフレイムメイプルです。まぁLes Paul Customもそうなんですが、価格帯的に全く違うモデルなので作りが違うのは当然です。一応こういう違いがあるんだ、と参考程度に見ていただければと思います。
さて、トップのフレイムメイプルが薄いという点について見てみましたが・・・
上の写真はフラッシュなし、下はフラッシュありで似たアングルから撮影した物です。見てもらえるとわかるとおり、光の当たり方でフレイム杢の見え方が変わり、実物をみると非常に立体的で美しい杢が出ているのが分かります。トップ材はたしかに薄いかもしれませんが、クラスとしては悪くないものを使っているというのもまた事実のようです。
続いて、安いギターなどでは「弾きづらいポイント」となることも多いフレットエッジの処理ですが、さすがにミドルクラスのギターということもあり、とても綺麗な処理がなされています。
ちなみに本家レスポールカスタムはこの通り。バインディングがフレットエッジに沿って加工されている、手間のかかった作りになっています。これはこれで、フレット交換がやりにくい等の意見もあるようですが、Gibsonらしいこだわりと言えるところですね。
というわけで、写真はこんな感じでしょうか。続いてレビューの方いきたいと思います。
- 操作性
では、まず操作性についてです。
見て分かるとおり、基本的にはスタンダードなレスポールですから、操作自体は迷う点はないですね。むしろ3.6kgと非常に軽いので、かなり扱いやすいギターなのは間違いないと思います。(ちなみにうちのレスポールカスタムは重く、4.1〜4.2kgくらいあります。)
何かあるとしたら、コイルタップ時のノブの引き上げが、少し硬いかな、というところはありました。間違えて触ってコイルタップになってしまう、ということはほぼ無いと思いますが、その代わり引き上げようとするとしっかりノブを持って引っ張らないといけません。ただこの点は、周りがツルツルしているスピードノブを搭載しているから、ということもあったりします。たとえばここに、ノブの周りに滑り止め加工がされたものを使ったりすればもっと扱いやすくはなりますね。見た目を優先するか、操作性を優先するか。簡単にカスタムはできるので、好みに合わせて変更しても良いかもしれません。
あとは特に無いんですが、あえて言うとPUの切替スイッチですね。これはもう、この価格帯のギターだとだいたい同じなんですが、本家GibsonギターのPUセレクターと、切り替えたときの質感がどうしても違います。初めてのギターとしてこのギターを選んで、後にGibsonにステップアップするなら全く気にならないと思いますが、逆にGibsonギターのサブとして使うと、ほんの少しですがきになるポイントではあります。といってもこれは感覚的な部分で、操作性自体は全く問題ないクオリティだと思います。
- サウンドレポート
では、音です。
せっかくですから、ほんの少しだけサンプルサウンドを録りました。クリーンセッティングで、コイルタップなしの状態でのサウンドです。フロント、センター、リアそれぞれで、SpearとGibson Les Paul Customの比較をしてみます。アンプはいつものKoch Classic SE C-SE6Cです。
※それぞれ聴けない場合はこちら(Soundcloud)
こんな感じですね。
聞いてもらえると分かるかと思いますが、フロントPUはレスポールカスタム、リアPUはSpearの方がアタックが強いです。録音だと分かりにくいかもしれませんが、実際にアンプで音を出すと全体的にレスポールカスタムの方が音が前に出る印象があり、また音自体もより大きく聞こえますね。実際入力されたレベルも、ほんの少しですがレスポールカスタムの方が大きくなっていました。どちらも全てのノブはフルアップにしているので、ギターそのものの違い、ピックアップの違いなど複合要因でそういう違いが現れているのではないかと思います。
音に関して言うと、Sparの方がより現代的なサウンド、Gibsonは、クラシックなGibsonサウンドそのものという感じの印象でした。音は録っていませんが、歪ませるとGibsonの方がローが強めに出て、勢いのあるサウンドを作ることができます。一方Spearはバランスのとれた音になりますね。
また、コイルタップについてですが、フロントのクリーンに限って言うと、コイルタップはかなり大きなアドバンテージで、音の雰囲気を軽くすることができます。ただ歪ませた状態や、リアPU等ではそれほど大きな変化はなく、雰囲気としてちょっとローがカットされたかな、というくらいの微調整ができるスイッチという印象でした。
なお、コイルタップに関して言えば、うちにあるShecter SD-VII-24-ASでも同様の印象で、ギターそのものの音を大きくかえるものではない、というのはだいたいこのクラスのギターのコイルタップに共通する物と言えそうです。もちろん音は変わるので、楽曲の雰囲気を変えたいときなどには役に立つかと思います。
というわけで、ミドルクラスのハイスペックギター「Spear Claymore Flame -Happy Gacky Special-」のレビューでした。
結論から言うと、「価格帯の壁を越えることは非常に難しい」という一方で、「このクオリティなら価格以上の価値がある」とも言えるかと思います。
全体的な作りもしっかりとしていて、確かに一流と呼ばれるブランドの上位機種と比べれば作りの違いなどは当然あるんですが、この価格帯で見ればとても良い作りをしたモデルと言えるかと思います。といっても私はあまり多くのミドルクラスのギターを見てきたわけではありませんので、もしかするとこのクオリティが今のミドルクラスギターのスタンダードと言えるのかもしれませんね。
どちらにしても、昔私が使っていたギター(黎明期のElectromatic)に比べると、圧倒的なクオリティの高さです。作りの面だけでなく、音も良いと思います。この価格でこれだけの音が出せるのならば、まず文句は出ないレベルだろうと思います。
このモデルと同クラスのギターはいろいろあります。例えばレスポールモデルやレスポールタイプのギターなら、Epiphone、Edwards、Burnyのモデルは間違いなく良いかと思います。また、まだ設立されたばかりの頃と違い、今のElectromatic by Gretschはよりグレッチらしい外観となっており、作りも良くなっていると聞きますね。今回はあえて、あまり知名度の高くないSpear Guitarを選んでみましたが、これも良いギターでした。レスポールカスタムよりな外観になっていることで、レスポールスタンダードを元にした多くのレスポールタイプとは少し違った雰囲気もあり、若干ゴージャスな外観となっているのも特徴ですね。クラシックな中に少し個性があるスタイルのレスポールタイプと言えます。
ギターは、好みの違いはもちろんありますが、基本的に(目指した方向性については)高価なものほど良い、という傾向があります。特に、同じ方向性を向いたモデルで価格帯が大きく違うモデルを比べるとより顕著です。(ヴィンテージ・プレミアムモデルはまた別ですが。)
その傾向自体は今も変わっていませんし、今後もよほどの革新が無ければ変わることはないかと思います。ただ、その差がより縮まっているのもまた事実かと思います。
エントリークラスというか、激安クラスのギターは、派手な価格がついていることもあって注目されやすいんですが、現在はこういったミドルクラスのギターも非常に良くなってきている、ということも知ってもらえたら、と思います。そして、知人、友人の方が初めてのギターを選ぶときや、自分でギターを買い足したいという際に、選択肢の1つとしてこういったクラスのものも考えてみると良いかも知れません。
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