今、レコーディングにDAWソフトを使うのは当たり前になっています。
DAWソフトでは、プラグインエフェクトというソフトウェアエフェクトを使い、録音したトラックを加工することができます。プラグインエフェクトにもいろいろなタイプがありますが、使用するDAWによって使えるソフトが決まっています。
業界標準と言われるAVID ProToolsはAAXという形式、多くのユーザーが使用するDAW、Cubaseを制作するSteinbergが開発し、最も多くのDAWがサポートするのがVSTという形式、そしてApple LogicやGaragebandなど、主にMac用製品に対応するAUという形式が代表的です。
こういったプラグインエフェクトは、大手メーカーが制作したものだけでなく、個人が制作して販売したり、無料で公開しているのもがあります。そんな無料プラグインにも、「ギターエフェクター」があります。そんな無料プラグインエフェクトは実際に使うとどんな感じなのか、今回は試してみたいと思います。
なお、私はCubase 8.5 Proを使用しているため、今回紹介するプラグインエフェクトは全てVST形式です。ソフトによっては複数の形式をリリースしていることもあれば、Blue Cat's PatchWorkのようにVSTやAUをProTools上で使えるようにするプラグインなどもあるので、そのあたりはそれぞれの環境に応じて使い分けてください。
また、個人制作のプラグインです。環境によっては動作しなかったり、フリーズすることもあります。こういったプラグインは直接本番のプロジェクトに使うのでは無く、一度仮のプロジェクトなどで使ってみることでそれらのトラブルを避けることができると思います。
では、行ってみましょう!
Ibanez / TS808 Tubesceamer Overdrive Pro 【エフェクター】【アイバニーズ】【TS-808/チューブスクリーマー】【オーバードライブプロ】【新宿店】 |
とはいえ、本物のエフェクターを持っていても、「無料」でエフェクターを使うことができるなら、試してみる価値はありますよね。無料のプラグインエフェクトは、膨大な数があります。突然公開停止になったりすることもありますが、探せばどこかでデータを落とすことができます。DAWを使って音声を処理することがあるのであれば、プラグインとしてのギターエフェクターも有用です。
プラグインエフェクトのメリット、デメリットなどは説明し出すと趣旨がずれてしまいそうなので詳しくは述べませんが、レコーディングに於いて基本的にプラグインエフェクトは「録音したトラックにかけるエフェクト」、ハードウェアのエフェクトは「録音する時にかけるエフェクト」です。本物のギターアンプに接続するならばハードウェア、録音した音を後から補正するならばソフトウェアの方が便利です。また、ギターがメインではなく、基本的にシンセサウンドでギターは必要なときにだけ使うようなプレイヤーなら、自室にアンプが無くても直接オーディオインターフェイスなどにギターを接続して音を録り、あとからプラグインエフェクトで音を加工すれば音作りをすることができます。
では、無料のプラグインエフェクトはどの程度「使える」のか。実際に比較して試してみたいと思います。今回は、世界で最も有名なオーバードライブ、「Ibanez TS808 Tube Screamer」のサウンドを再現したり、そのサウンドを思わせるプラグインエフェクトと、本物のヴィンテージオリジナルTS808の音を比べたいと思います。
まずはTS808をギターアンプで鳴らしてみましょう。
- TS808+ギターアンプ
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
アンプ:Koch Classic SE C-SE6C クリーンセッティング
全ノブ12時設定
とりあえず何も考えてないコードストロークです。音の違いを確認するためのものなので音作りもなにもないです。オリジナルヴィンテージTSはリイシュー808と比べると音の分離感がよく、ミッドが強調されますがそこまで上下がカットされなかったりします。あくまでリイシューと比べれば、ということですが。
ただ、この音とそのまま比較するのはフェアではないでしょう。なので、まずはDAW上でギターアンプモデリングを使ってクリーントーンを作ります。
- クリーントーン
(聴けない場合はこちら)
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価格:22000円(税込、送料無料) (2016/10/17時点)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
ということで、最新の技術を使い、ハイクオリティなアンプサウンドを作ると評判のプラグインエフェクト、Positive Grid BIAS Amp Professionalを使用してクリーントーンを作りました。ちなみにアンプの各設定は下記の通り。
こんな感じです。Amp Matchは使っていません。Bias Ampはこんな風に、アンプそのものを構築するように様々なセッティングができるので面白いです。
では、ここに、オリジナルTS808をつないでみましょう。ここから先、ノブは全て12時設定になります。
- オリジナルTS808
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
こちらが本物のTS808を使った音。この音を基準として、実際に無料プラグインのサウンドを比べてみましょう。ブランド名順に比べていきます。
- BTE Audio TS' Secret (ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
シンプルなTS系フリープラグインです。ハーフラックをイメージしたスタイルの操作画面ですね。オリジナルよりも分離感が良いサウンドといえるかもしれません。TSそのものよりもTS系オーバードライブみたいな音ですね。
- Ignite Amps TS-999 (ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
フリーのアンプモデリングなども公開していたIgnite Amps。公開していた、というのは、現在公式ページが閉鎖されているためです。が、上記のダウンロードページからプラグイン自体はダウンロードできます。
こちらは2010年に制作されたTS再現プラグイン。FATスイッチや非対称クリッピングを再現するスイッチもありますが、今回はオリジナルとの比較ということでOFFにしています。
オリジナルと比べると少しローが強めなサウンド。シャリっとした倍音の出方も強めですが、オリジナルの雰囲気も十分にあります。
- Ignite Amps TSB-1 Tyrant Screamer (ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
同じくIgnite AmpsのTS系プラグイン。上記TS-999をアップデートして2012年に公開されました。ブーストスイッチとSweepコントロールを追加。逆にFATと非対称スイッチは無くなりました。音の特性はTS-999と同じですね。
- Mercuriall TSC 808 Core (ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
こちらも、フリーアンプモデリングプラグインなども公開するブランドのフリーTSプラグイン。「Mercuriall」という名前からも分かるとおり、Marshall系のプラグインも制作しています。
かなりオリジナルに近いですが、ローが少し強めでしょうか。というかオリジナルよりもレンジが広めですね。ですがかなり雰囲気があります。操作画面も「その気」にさせてくれますね。
- Tonebytes Pedals Superdrive (ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
続いてはこちら。様々なスタジオ系エフェクトやVSTインストゥルメンツも制作するTonebytesのフリーVSTプラグイン。1つのプラグインの中にコーラスやディレイ等20種類のエフェクト、2種類のアンプモデリング、7種類のキャビネットモデリングを収録するマルチエフェクトプラグインです。その中の1つ、「Superdrive」は、明確にTSとは言っていませんが、緑色のオーバードライブということで使ってみました。
TS再現系ではないのでこうして比べてしまうとゲインは高いし、ジリっと歪む感じが強いしで音は全然違いますね。とはいえクラシックなオーバードライブサウンドということは言えるのではないかと思います。
- TSE Audio TSE 808 v2.0.1(ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
続いてこちら。これも有名ですね。アンプモデリングやエフェクト再現系プラグインを公開するTSE AudioのTS系プラグインです。全体的にゲインが高く、解像度もオリジナルより強めになっていますが、まぎれもなくTSサウンドですね。
- SimulAnalog Guitar suite(ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
続いてはこちら。SimulAnalog Guitar suiteというフリーのバンドルウェアから、TSの再現エフェクトです。Boss DS-1、Boss SD-1、Ibanez Tube Screamer、Maestro Oberheim PS-1、Univox Univibe、Fender Twin 1969、Marshall JCM900 Dual Reverbのエフェクトサウンドをまとめたものです。
見ての通りの超シンプルな操作画面。ですがサウンドクオリティは十分に高く、人気の高いフリープラグインですね。オリジナルと比べれば全体的にレンジが広めになってはいますが、かなり近いサウンドとなっているように思います。Levelコントロールが高くなっていますが、これは音量をそろえるためです。
- SimulAnalog Guitar suite(ダウンロードページ)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
同じくSimulAnalog Guitar suiteからBOSS SD-1再現プラグイン。SD-1なのでTSとは違いますが、回路的にはTSにかなり近い(非対称クリッピングが特徴)なので、こちらも試してみました。TSと比べ、少しパリっとしたサウンドの傾向。これはオリジナルの808とSD-1の違いにも言える傾向ですね。サウンドの再現としては十分と言えそうです。Levelが上がっているのは音量をそろえるためです。
有料プラグイン
ということで、いろいろなフリープラグインを見てきましたが、では有料プラグインのサウンドはどうなんでしょうか。少し比べてみましょう。
WAVES / GTR3 Software Only Edition【渋谷店】
価格:16200円(税込、送料別) (2016/10/16時点)
(聴けない場合はこちら)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
様々な定番プラグインで人気のWavesが制作するギター用エフェクトプラグインです。19種類のギターアンプ、7種類のベースアンプ、22種類のキャビネット、26種類のストンプを収録しています。
単品で販売されることよりも、Waves Gold以上の定番プラグインバンドルに収録されているので、それで持っている人も多いと思います。
ちなみにこのプラグイン、発売はなんと2007年。当時最先端だったサウンドも、さすがに今となっては古さを感じます。まぁTSそのものを再現したエフェクトではないので、TSと比べて違うのは仕方ないとしても、少し音に硬さがあるようにも思います。
ただ、このGTR3のギターアンプモデリングはスムースな音色として定評があるのも事実です。
- Waves Oneknob Driver
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
もう1つ、Wavesから。こちらは2011年に発売された、7種類のプラグインバンドル、Waves OneKnob Seriesに収録されているエフェクトです。全てのプラグインが1ノブで、シンプルに音を変えられるシリーズです。
このOneknob DriverはWaves Gold以上の定番プラグインバンドルにも収録されています。
TSどころか、ギター用ではなくスタジオエフェクトとしての歪み系。しかしこれが意外と悪くないんですよ。個人的にはさっきのGTR3のオーバードライブよりも好みだったりします。
Positive Grid BIAS FX professional 【数量限定特価】
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(聴けない場合はこちら)
- 録音環境
ギター:Gibson Custom Shop 50th Anniversary 1959 ES-335 Gloss Antique Natural リアPU
DI:FOCUSRITE ISA One
オーディオインターフェイス:Steinberg UR44
アンプモデリング:Positive Grid BIAS Amp Professional
最後にこちら。2015年に発売されたばかりの最新ギターエフェクトプラグインバンドル、Positive Grid BIAS FX ProfessionalからTS808のモデリングです。
最新の技術で、メーカーが販売する有料プラグインだとこういう音になります。
(聴けない場合はこちら)
改めてこちらが本物のTS808を使った音。まぁアンプモデリングもBias Ampなので相性が良いということもあるかと思いますが・・・やはり最新のプラグインのクオリティは無料プラグインや数年前のプラグインとは格段にレベルが違うことが分かりますね。
(聴けない場合はこちら)
ちなみにうちのギターアンプをマイク録りするとこんな感じ。比べるとかなりダークな音ですね。力強い音で、単体で聴くとやはり迫力が違います。逆に言えばプラグインのモデリングのような高音までは出ていないので、そういう音が欲しい時はプラグインで、ということもありかも。
そしてBias AmpにはAmp Matchという機能があります。今回使っていないのはまだちゃんと試してないからなんですが・・・この辺は今後また、どんな感じか記事にしていこうと思います。
と、いうわけで。今回はいろいろなフリープラグインを中心に、「無料のギターエフェクター」を比べてみました。
当たり前ですが「本物」とは違いがあります。機材の接続の関係からも、本物のエフェクターはギター>エフェクター>DI>オーディオインターフェイスとなっているのに対し、プラグインエフェクトはギター>DI>オーディオインターフェイスの後にかかります。そういう意味でも違いが出るのは当然かもしれませんが、それでも、無料プラグインであってもかなりのレベルで再現されているものが多いですね。
また、当たり前ですがプラグインエフェクトは録音した音にかけるエフェクトのため、一度ギターを録音すれば、あとからいくらでもかけるエフェクトを変えることができます。そのため今回のサンプルも、オリジナルを使ったサンプルは別録りですがプラグインのサンプルは全て同じトラックです。なので、PC上で操作する上ではプラグインエフェクトはとても便利です。DAW上で操作するデジタルエフェクトのため、セッティングも無限大にプリセット保存することができます。
逆に、プラグインエフェクトを本物のギターアンプで鳴らそうと思ったらそれはそれで大変です。PCからの出力はラインレベルなので直接ギターアンプに挿すと、また違った音になりますし。なので、まぁいまさら言うまでもないですがハードウェアのエフェクターとプラグインエフェクトは適材適所です。つまり両方持っておくのが良いのではないかと思います。
とはいえ両方にお金を使うのは大変。ならば、こういうフリーのプラグインを活用すれば、いろいろ便利に使えるのではないでしょうか。緊急用やサブのエフェクトとして考えれば十分なクオリティのものがありますし。もちろんTSだけでなく様々なペダルがありますので、是非、いろいろ探してみてください。
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