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コマーシャルムービー
こんな感じの動画も作られています。JHS Pedalsは、統一感のあるデザインやこういった試みなど、いろいろとネタを仕込んできていておもしろいです。ペダルそのものの中にも、かなり小ネタが仕込まれているようですので、それについても書きながらレポートしたいと思います。
JHS Pedals Moonshine Overdrive
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まずはペダル名の「Moonshine」。直訳風の誤訳をすると、「月の輝き」という感じでしょうか。とても美しい音がでるペダルに感じるかと思います・・・が、これは大きな間違いで、Moonshineとは「ばからしい」「たわごと」といった意味と共に、「密造酒」、特にウィスキーの密造酒を指す言葉です。
1920年から1933年にかけて、アメリカでは有名な禁酒法という法律が制定されていました。多くのマフィアがはびこる原因を作った法律でもあり、またかなりのザル法だったとも言われ、日本の生類憐れみの令のように、大失敗の法律だったと今では言われていますね。
禁酒法が制定されたといっても、よく知られているとおり、多くの密造酒がまかり通っていました。特に多く作られたのが、バーボンウィスキーです。といっても有名な銘柄のような良いものではなく、かなりの粗悪品が多かったようですが、それでも手に入る酒がそれしかなければ、それを飲むしかありません。そういった密造酒は夜な夜な造られることから、月の光に照らされて作られた酒、というような意味を込め、Moonshineと呼ばれるようになります。密造酒の製作者はMoonshinerと言われ、現在でも作っている人がいるとかいないとか・・・もちろん違法なのでやっちゃいけませんが、そういう文化的な背景がまずあります。まず、これを知っていないと、Moonshineという名前のペダルに、なんでこんな牛乳のボトルみたいなのが描かれているのか理解できないと思います。そして、この意味が分かると、初めて先に挙げたコマーシャルムービーの意味も分かる、というわけですね。
このMoonshine Overdriveは、VOL、TONE、DRIVEコントロールとPROOFという切替スイッチを搭載しています。VOLやTONE、DRIVEはともかくPROOFって何でしょう?
これはスタンダードなバーボンの1つ、アーリータイムズのラベルです。アルコールは40%ALC/VOL、80PROOFと書かれています。単にPROOFを直訳すると、証拠とかいう意味になってしまい、これも訳が分からないんですが、ここでのPROOFはアルコールの強さを表す単位、アルコールプルーフのことを指します。アメリカの場合、単純にアルコール度数の2倍の数値で表されます。
このPROOFスイッチは、密造酒のアルコールの強さを切替る、すなわち、歪みのゲインを切り替えるスイッチということになります。全体的なペダルのコンセプトが統一されている、とても面白いペダルなんですが、その意味が分からないと、何が言いたいのかよく分からないペダルということになってしまいますね。
ちなみに、これは言及されていませんが、筐体が銀色なのにも意味があると思います。禁酒法時代に作られた多くの密造酒はウィスキーです。ウィスキーは、穀類を原料として作られる蒸留酒で、樽で寝かして熟成されます。ウィスキーのボトルに書かれている年数は、ここで何年寝かされたかを示しています。ウィスキーは樽で寝かされているうちに樽の色が混ざって、あの琥珀色の酒になるんですが、禁酒法時代には、もちろん樽で寝かされたものもありますが、そうでないものの方が多く、そのためMoonshineと呼ばれる密造酒は蒸留された時のままの、無色透明をしていることが多いです。筐体の銀色はそれを表しているんだと思います。
さて、なぜこのペダルが「密造酒」と名付けられたのか。それも考えてみます。このペダルは、公式では「最も有名な緑色のオーバードライブ」とぼかされていますが、そこまで言えばこれは分かりますよね。そう、Tube Screamerをベースとしたペダルです。
Ibanezが作る、本物のTube Screamerがいわば正規の酒だとすれば、このMoonshine Overdriveは密造酒みたいなものだ、という意味が込められているのかも知れません。数年前、あれほど溢れていたTS系ペダルがめっきり作られなくなっているのも、禁酒法時代、酒が造れなくなったことと重ね合わせている・・・というのは深読みのしすぎかもしれませんが、背景を知った上でペダルを見ると、いろいろと考えることができる、そんなオーバードライブです。私も最初は意味が分からなくて、いろいろ調べているうちに面白くなってきて、このペダルを弾く機会をうかがっていたところ、先日弾くことができた、という感じだったりします。
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こちらは、Moonshine Overdriveの内部です。この画像ではチップが伏せられていますが、中央のソケットに載っているのがいわゆる4558系のOpampです。その右にあるのは昇圧に使うチャージポンプICでした。電源は9Vですが、内部で18Vに昇圧されているということです。
また、PROOFスイッチはどうやらクリッピングの切替のようです。2モードのスイッチとなっていて、基板を見る限りではスタンダードなダイオード対称クリッピングと、LEDの非対称クリッピングを切り替えているようです。
さて、このペダルが意図した意味が分かってきたところで、さっそくレポートしてみたいと思います。本当は808とも比較したかったんですが、全然出回っていないようなのでMoonshineのみでの試奏となりました。
- セッティング
Fender American Standard Stratocaster
Fender USA / Upgrade American Standard Stratocaster Black Maple 【心斎橋店】 |
JHS Pedals Moonshine Overdrive
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Roland JC-120
てな訳でいつもの組み合わせです。
- 操作性
スタンダードな3ノブオーバードライブで、トグルスイッチも2モードのサウンド切替なので、特に難しいことは無いですね。迷うことなく使うことの出来るペダルです。
- サウンドレポート
では音について。考えてみると、TS系の新製品を弾いたのはものすごく久しぶりです。
一応、これまでレビューしてきたモデルではBUSKER’S BOD-2 modified by ROOT20、Paul Cochrane Timmy、TS808、BOSS SD-1、Lovepedal Eternity、BOSS OD-1、Arion MTE-1、Ruza Effects Checkmate、Noel Etude#3、Leqtique MAR/MATがあり、これらは全て、(一部実家にありますが)手元に残しています。あとついでに、TS9、TS808HW、TS5、TS7、Landgraff Dynamic Overdriveなどを持っています。試奏したペダルも含めると、それなりにTS系を弾いてきてはいるので、一応低価格帯からハイエンドと呼ばれる価格帯まで、ある程度のTS系ペダルの音は知っているつもりです。
その上で、今回のMoonshine Overdriveの音を出したときの第一印象としては、いわゆるTS系とはちょっと違う、それでいてTS系そのものという、いわば「今のTS系ペダル」というイメージが浮かびました。
TS系というと、ミッドがかなり強くて、レンジは広くレスポンスが高いものも多いですが、あの独特のやわらかくて若干平面的な音が特徴と言えます。Moonshineも、たしかにミッドが強く、同時にレンジが広くてレスポンスが高い、いわゆるTS系ハンドメイドペダルのもつ特性は備えていました。
しかし、音そのものがかなりすっきりとしています。ミッドは強めなので、もちろんTS系の範疇で、ということにはなりますが、音に立体的な奥行きと透明感を追加したような雰囲気がありました。同じTS系回路でいうと、Timmyのようなトランスペアレント系とはまた違っていますが、そちらに近い方向性を持っているように思います。上に挙げたペダルの中では、Noel Etude#3が一番近いかも知れません。Noelも新しいペダルですから、今のペダルに求められている方向性を持ったTS系となると、こうなるのかな、というのが印象的でした。
各ノブのコントロールですが、ゲインはかなり上がります。ですがTS系特有のマイルドさがあるため、音そのものはオーバードライブの範囲内に常にとどまっています。スイッチの切替ではコンプレッションが若干変わり、上ポジションの方がレスポンスが良くエッジも強めに立ちますが、どちらのモードでもレスポンスは十分に高いです。メインドライブとして和音からリードまで使うなら上ポジション、リード時にブースト的に使うなら下ポジションが合うのかな、と思いました。
そしてこのペダル特有の立体感。これは18V駆動が効いているのかもしれませんが、この立体感が、JHSの求めたTS系なのかな、とも思います。あくまでTS系ドライブサウンドではあるんですが、これほど歪みに立体感を感じたTS系は他にありませんでした。これなら、今の音楽にも合わせやすいですし、いろいろと使う場面が出てくるペダルとなるんじゃないかと思います。
かつて、溢れんばかりに作られたTS系ペダル。楽器店のショーウィンドウにあるオーバードライブのうち、一体何割がTS系なのかと思うほどだったこともありましたが、今生き残っているモデルはかなり減ってしまいました。本家モデルは別として、トランスペアレント系を築いたTimmyや、ハイエンドTSの代表格のLandgraff、独特の質感があるLovepedal。このあたりは今でも人気のあるペダルだと思います。
JHS Pedals Moonshine Overdriveは、これらのどのペダルとも違う特性ながら、それらに匹敵する個性あるサウンドを持っていると思います。
TS系のサウンドでありながら、TS系の殻を破ろうとしているペダル。同じクリーミーなサウンドでも、コーヒーフレッシュではなく、本物の生クリームに近づいたような、そんなイメージのペダルです。
ちょっとまだ、楽器店で見かける機会は少ないかも知れませんが・・・まろやかなオーバードライブサウンドが必要なら、是非試してみてください。今の時代のTS系を感じられるかもしれません。
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