先日ついに発売となった「RAT Limited '85 Edition」。
もともとあまり買うつもりはなかったんですが、GW中に立ち寄った楽器店で試奏した勢いでつい買ってしまいました。
帰ってじっくりと見てみたところ・・・今回発売された85エディションは「復刻品」というよりも「新しいRAT1」というべきモデルなのではないか、という疑問がわき、せっかくだからいろいろ調べてみるべきだと思いました。
というわけで、ゴールデンウィーク中になぜかRATが4台増えたのですが・・・さっそくいろいろと比較しながらレビューをしてみようと思います。といってもさすがに5台のレビューと比較を一気にやってしまうのはちょっと大変なので、何回かに分けて書いていきますね。今回は「各モデルの細部」について書いてみます。
それでは、いってみましょう!
RATの歴史
まずRATというディストーションペダルについて、軽く見てみましょう。
RATがエフェクターとして形になったのは1978年、1台のプロトタイプを含む12台の「Bud Box」と呼ばれるモデルが製作されたのがはじまりです。THE RATいう名前がつけられていました。
その後同じく78年から、製品版「The RAT」が製作されています。通称ラージボックスと呼ばれるこのモデルは、最初期と初期でロゴが少し違いがあります。また1981年頃にトーンを調整するノブの名称が「TONE」から「FILTER」へと変更されています。ラージボックスRATは1991年から2005年に「Vintage RAT」という名称で復刻版が製作されていました。
さて、オリジナルのラージボックスRATは1983年頃まで生産され、その後スモールボックスと呼ばれる、見慣れた形のRATが登場します。通称RAT1と呼ばれるモデルです。1984年から1986年頃までのスモールボックスRATは「RAT」ロゴが白地に黒文字で書かれており、これを通称ホワイトフェイスと呼びます。ことし復刻されたRAT Limited '85 Editionはこのころのモデルをベースに作られています。そして86〜88年頃まではロゴのカラーが反転したRAT1、通称ブラックフェイスと呼ばれるモデルが製作されています。
88年、RATはペダル上面から「Proco」ロゴを廃し、RATロゴの「A」の中央にLEDを搭載したモデル、「RAT2」へとバージョンアップがなされます。LEDの搭載によってミレニアムバイパス化がなされたモデルとなります。それまでのRAT1よりもトランジスタが一つ多いのがミレニアムバイパスの証拠です。
そして1997〜98年頃、RATはケースに斜面をつけた「スラント型ケース」へと移行し、同時期にOPAMPをLM308からOP07系へと変更、3PDTフットスイッチを採用したトゥルーバイパスとなり、基板レイアウトを一新します。(この新しい基板にはRAT3と書かれています。)同時期にノブの形状も変化しています。そして2003年頃(もっと前かもしれません)、生産拠点がアメリカから中国へ移され、それが現行RAT2となっています。
そんな歴史のあるRATですが、最初期のものは非常に高価で入手できませんでした・・・というわけで、まず今回比較するモデル5種類をご紹介します。
- 現行 中国製RAT2
- 1998年製? RAT2 スラント型モデル(USAメイド)
- 1995年製 RAT2
- 1986年製 RAT1 ブラックフェイスモデル
- RAT Limited '85 Edition
以上の5台となります。それでは、それぞれ細部を見てみましょう。
Proco RAT2 現行品
現行レギュラーモデルのRATです。ケースに斜面が付けられたスラント型ケースを採用し、ノブは細めのタイプが搭載されています。また、「RAT」ロゴの「A]の中の三角形が若干塗りつぶされたように見えるのも現行品の特徴です。
ペダル裏には電池ボックスがあります。
ペダルの裏にはシリアルナンバーとCEマークが貼られています。中国製になってから、ペダル本体にMade inの表記がなされなくなりました。Made in表記は
このように外箱に付けられています。
電池ボックスとゴム足のネジです。
内部基板はこんな感じです。中国製になってからも初期のころはフットスイッチ部は普通に配線されていましたが、現在はフットスイッチにも基板が取り付けられています。
OPAMPには「OP07CP」が使われています。
基板を裏返すと、「RAT3」と書かれています。
現行品のノブです。ケースがスラントタイプになったころと同時期にこの形になったようです。RATロゴのAの三角形(LEDがある部分)もかなり白く見えます。
写真はこんなところでしょうか。サウンドは一言で表すなら「使いやすいディストーション」です。
1998年製? Proco RAT2 スラント型モデル(USAメイド)
続いて、同じくスラント型ケースの初期モデルをご紹介します。本体から製造年は特定できないのですが、このモデルを新品で買われた方の保証書から98年製と判断しました。(ただ、ケースがスラント型になったのはもっと後という記載もあり、ちょっと謎です。)外観でノブが現行品と違っているのが分かると思います。ただ、ほぼ同時期のUSA製スラントRAT2に現行品と同じノブが付いたモデルもあるようなので、おそらくノブの変更が行われる過渡期に製作されたものだと思われます。個人的にはこっちのノブの方が好きですw
シリアルシールです。CEマークとシリアル番号の他に、Made in USAの表記がなされています。
電池ボックス、ゴム足ネジ等は現行品と同じでした。ただ筐体には細かい違いがあります。(Part.2でお見せします)
内部基板です。現行の中国製モデルと比べると、基板の色が違います。レイアウトは酷似していますが、クリッピングダイオードの場所等が変わっています。また、現行品の抵抗は全てカーボンですが、こちらは(見えにくいですが)左の方にある抵抗1本にのみ金属皮膜抵抗が使われています。
現行品同様、基板には「RAT3」と書かれています。
OPAMPは現行品と違い「OP07DP」が採用されています。
ノブとロゴです。ノブについては先ほど述べたとおりですが、RATロゴのAの△部分が現行品に比べてはっきりしています。
写真はこんなところかな。音を一言で表すと「爆音重低音」です。後のPartで述べますが、このモデルだけ他のRATと比べて音が全く違います。
1995年製 RAT2
ケースがスラント型になる前のRAT2です。思えば先月までRATはこれしか持ってなかったんですよね・・・「どうしてこうなった」って気分ですw
長いこと使っているだけあって、一番愛着のあるモデルです。
シリアル表記です。CEマークがありません。CEマークはたしかEUで物を売るときに付けないといけないもので、RATには96年頃からCEマークが付けられているようです。
電池ボックスとネジです。このころのRATは電池ボックスを開けるためのネジが銀色で、電池を入れる部分は白いプラスチックでした。また、ゴム足のネジが現行よりもかなり短い物となっています。
内部基板です。フットスイッチにはDPDTのものが使われ、ミレニアムバイパスとなっています。そのため左下に見えるトランジスタが2つあります。フットスイッチの左上にダイオードが4つ並んでいますが、このうち2つはミレニアムバイパス回路に使われていて、クリッピングは残りの2つとなっています。
「RAT3」基板のモデルと違い、ポットにはCTS製のものが使われています。ポットの番号「R137951G」のうち、137がCTS製であることを示し、95が製造年を示します(ポットデイトといいます)。ちなみに今のCTSポットは表記方法が違うみたいです。
基板には「THE RAT」と書かれています。あと「THE BADDEST BOX(最悪の箱)」とも書かれていますw
OPAMPはナショナルセミコンダクタ製のLM308Nが搭載されています。有名な話なのでご存知の方もおられるかと思いますが、RATに使われるLM308Nはナショナルセミコンダクタ製かモトローラ製です。PROCOでは特にこれらを区別せず、在庫に応じて使っていたようなので、RAT1、RAT2を通してどちらのOPAMPのモデルも存在しています。抵抗値の一部が金属皮膜抵抗となっています。
このモデルの写真はこれくらいでしょうか。サウンドを一言で・・・表すのは難しいです。このモデルだけ長いこと使っているため、私にとってのRATサウンドの基準となってしまっています。他モデルと比較しての詳細レビューは別のPartで行います。
1986年製 RAT1 ブラックフェイスモデル
オリジナルRAT1です。85エディションを買ったその日に、どうしても弾き比べがしたくて、いてもたってもいられず安く出ているモデルを探して買っちゃいましたw
安かったのでそこまで綺麗な状態ではなく、けっこう筐体全体的に錆びが進行しています。RAT1はRAT2とは塗装が違っていて、非常に錆びやすいことでも有名で、そのため綺麗なモデルってちょっと高かったりするんですよね・・・。
ペダル裏側とシリアルです。シリアルのシールには「THE RAT」ではなく「PRO CO」と入っています。また、電池ボックスの蓋の上にリベットが2つ見えますが・・・
これは電池ボックスを内部で留めているものですね。RAT1と、あと最初期のRAT2ではこのタイプの電池ボックスが採用されています。
ゴム足と電池ボックスの蓋です。ゴム足のネジは95年RATのものと同じく、短いタイプとなっています。電池ボックスを開けるためのネジは銀色です。
内部基板全体図です。
基板の裏側はこんな感じです。
「FUZZ TONES FOR THE CONNOISSEUR(玄人のためのファズトーン)」「RAT TYPE B」と書かれています。
メキシコ製のDPDTフットスイッチ。
OPAMPはモトローラ製LM308Nですね。抵抗の一部に金属皮膜抵抗が使われています。
ポットデイトは86年を示しています。ポット3つとも、真ん中の端子だけが錆びてます。86年製ということで、ホワイトフェイスからブラックフェイスに変わったばかりのころのモデルですね。ホワイトフェイスとブラックフェイスは外観が違いますが、基本的に内部基板や回路に変更はないようです。
写真はとりあえずこのくらいでしょうか。音は一言で言うと「やわらかい」です。
RAT Limited '85 Edition
今年のNAMM SHOWに出展され、話題となった85エディション限定モデルです。限定といっても、国内だけで300台ということですから、かなりの数が製作されているのではないかと思われます。
見ての通り、ペダル上面の「Proco RAT」ロゴが白地の黒文字になっています。また、手前のロゴも「PROCO Sound Inc.」と書かれています。(手前のロゴはオリジナルホワイトフェイスモデルよりも大きくなっているようです)
外箱には、オリジナルサウンド、オリジナルエレクトロニクス・・・と、オリジナルを強調していますが、Procoオフィシャルサイトに行ってみると、「このモデルはオールドRATの復刻版じゃなく、これがオールドRATだ」と書かれています。いろいろ読み方はできると思いますが、実機をじっくり見て、古いモデルと比べたりした今では、これは「85年風の外観でRAT1を新しく作った」という意味なんじゃないかと思っています。その理由は・・・たぶん写真を見ていただければ分かるかと思います。
シリアルナンバーと電池蓋です。リベットも再現されていますが・・・電池蓋の開ける方向がオリジナルと逆になっています。Procoは以前発売していたラージボックスRATのリイシュー「Vintage RAT」でもオリジナルにはなかったノブまわりのドットをあえて追加したりしていたので、これも、例えばオリジナルモデルと偽っての販売を防ぐため、などの理由でわざとそうしてあるのではないかと思います。
電池ボックスの形状や、蓋を開ける銀ネジも再現されています。ゴム足のネジは現行品と同じ物が使われていました。
基板全体図です。86年RAT1と比べると、基板自体の素材は変わっていますが、レイアウトは完全に再現されていることが分かります。
基板の裏は特に文字は書かれていません。その代わり、製造年月日でしょうか・・・2010年2月10日を示すシールが貼られています。
メキシコ製のDPDTフットスイッチです。しかし形状はオリジナルとは異なっているようです。
OPAMPにはナショナルセミコンダクタ製のLM308Nが使われています。
・・・って、DALE抵抗!!
金属皮膜抵抗とカーボン抵抗を使い分けるのはオリジナルでもなされていましたが、DALE抵抗(写真左下の青いコンデンサの隣にある赤いヤツです)とは・・・。これを使っているエフェクター、初めて見ましたw
よく見るとOPAMP周りのコンデンサもいろいろなパーツが使われています。見た目は綺麗ですが・・・こんなパーツの選別をProcoレベルのメーカーがやるってのは信じられません・・・。
OPAMPと逆側の基板です。ちょっと見えにくいですが・・・写真右下にピンク色の謎の抵抗が確認できます。これも、少なくとも大手メーカー製では見たことがありませんね。すごすぎる・・・w
電解コンデンサも、青いのとか黒いのとか赤茶色のものを使い分けてますね。オリジナルの基板だと全部同じ色のものです。このパーツのこだわりは、異常といってもおかしくないかもしれません。この85エディション、やけに高いと思ってたんですが、こういうことだったんですね・・・。
ちなみに、普通のカーボン抵抗に見える物でも、1/4Wと1/8Wの使い分けがされているようです。私は見ても分からなかったんですが、分かる方に教えてもらいました。
というわけで、これがさきほど「85年風の外観でRAT1を新しく作った」と解釈した理由です。LM308NとCTSポットはともかく、他はオリジナルパーツと言うにはあまりにも・・・ですからね。オリジナルの音を今のパーツで再現するにはここまでやらないといけなかった、ということなのかもしれません。
内部にはROHSに適合していることを示すシールが貼られていました。
CTSポットです。ポットデイトを示す部分?が0950というシンプルな表記に変わっています。09は2009年、50は50週目を示すのかな?と思います。去年の年末に作られたポットのようですね。
というわけで、写真はこんな感じでしょうか。音を一言で言うと「やわらかくて解像度が高い」という印象でした。
「いろんなRATを比較してみた」企画のPart.1はここまでです。
次回はいよいよ比較に入ります。Part.2では外観をより細かく比較していく予定です。
それでは、次回までしばらくお待ちください。
人気blogランキングへ