「エフェクターの選び方」シリーズ、第3回はアンプモデラーと呼ばれるものを見ていきたいと思います。
前回はマルチエフェクターの使い方、ということで、その機能や独特のシステムを見てみましたが、最近のマルチエフェクターには、「アンプモデリング」という機能が搭載されていることが多いですね。これはいったい何なのかということや、その実力のほどを確認してみましょう。
- アンプモデリングとは
ギターの音を決める一番の要因はアンプです。(その次にピックアップ・・・かな?)ですので、多くのトップクラスのギタリストはアンプに一番こだわりを持っています。上に挙げた写真のような、一流のアンプをみなさん使っていますよね。しかし、アンプはやはり高いものです。たとえば曲中で何種類かの音を使いたい、という場合などには、それぞれの音に合わせたアンプをそろえるのが一番いいのですが、そんなことをしていてはとんでもない予算が必要となってしまいますよね。そこで登場したのが、「アンプモデラー」とか「アンプシミュレータ」と呼ばれるものでした。
- アンプモデリングの歴史
歴史、というほど古いものではありませんが、あえて言うなればBOSS OD-1やIbanez TS808といったオーバードライブは、もともとアンプモデリングの先駆けといっても過言ではないかも知れません。どういうことかというと、60年代、エリック・クラプトンらの演奏によって「ディストーションサウンド」というものが発見されます。しかしこれは、真空管アンプをフルアップさせなければ出すことのできないものでした。当時のアンプにはマスターヴォリュームはありませんので、歪んだ音を出すためには大音量でなければならなかったわけですね。とても家庭での練習などで作り出せる音ではありませんでした。
そこで登場するのが、オーバードライブやディストーションという歪みエフェクターです。家庭で練習するような小さな音量でも、歪んだ音を作ることができる、というのがそもそもの始まりでした。そう考えると、住宅が密集していて、大きな音は近所迷惑になりやすい日本のメーカーが、この歪みエフェクターの世界で台頭していく、というのは自然ななりゆきだったのかも知れませんね。
さて、時代をもっと進めてみると、デジタル技術が開発され、LSIというより小さな部品に多数の計算回路を組み込む技術が発達し、記憶媒体は大容量化、コンピュータの計算速度もどんどん速くなってきました。そういった技術の進歩を取り入れ、様々なアンプや、アーティストの演奏が研究、解析されてきます。そうして生まれたのが「アンプモデリング」といわれる技術だったわけですね。
- POD vs COSM
特にモデリングということに熱心なメーカーといえば、LINE6とBOSSでしょうか。LINE6はもともと、プロフェッショナル向けのデジタルレコーディングツール「Pro Tools」というハードウェアとソフトウェアの集合体へのプラグインとして、アンプモデラーを提供し、非常に好評を得ていました。Pro Toolsは、現在においては音楽のレコーディングのみならず、映画制作における音響スタジオなどにも当然のように装備されているものです。そのキラープラグインともなったLine6のAmpFarmというアンプモデラーは全世界でも認められた製品といっていいと思います。そして、そのLINE6がPRO TOOLSとは無関係の、独自に作りあげたモデリングエフェクター「POD」は、多くのギタリストがレコーディングやライブでも使用するベストセラーモデルとなったわけです。
対してBOSSは、知ってのとおりRolandの一部門として、ギターエフェクターの世界では名門中の名門として君臨していますね。その親会社のRolandなのですが、これがまた、コンピュータと電子楽器を結びつける、ということが大好きでして、YAMAHA等と共にMIDI規格を作ったような会社でして、このMIDI規格を使って、コンピュータに演奏させる音源モジュールを開発したりと、非常に幅広い活動をしていたわけです。
で、その音源モジュールなのですが、シンセサイザーから打楽器やオーケストラストリングスのサウンドが出るのをご存知の方も多いと思いますが、あの音を作っているのがいわゆる「音源」と呼ばれるものです。これってつまりモデリングですよね。そういう歴史を持つローランドのエフェクター部門であるBOSSが、ギターやアンプのモデリングに力を注いでいく、というのは自然な成り行きだと思います。そうしてBOSSが開発したモデリング技術「COSM」は、マルチエフェクターGTシリーズをはじめとして、様々なエフェクターに使用されることになります。
主にアメリカではPODが、国内ではCOSMを搭載したGTシリーズがよく売れているそうですね。
- その他のモデリング技術
他にアンプモデリング技術を開発しているメーカーといえば、ZOOMのVAMSやKORGのAMPWORKS、さらにはアンプモデリングのサウンドをミックスしてさらに新しいアンプモデルを作り出すDigitechのGeNetXTM Hyper Modeling、そして真空管を使い、サウンドだけでなくアンプの回路をデジタルで再現したVOXのValvetronix、というように、様々なメーカーが技術を駆使してアンプモデリングを作っていますね。
- アンプモデラーのサウンド
それでは、アンプモデラーを使ったサウンドをいくつかみてみましょう。使った機材はRETSCH G6119 Tennessee Roseと、VOXのValvetronixを使ったモデリングマルチ、ToneLab SEです。
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スピーカーに12インチを使ったタイプのツインリバーブのモデリングです。
フェンダーツインリバーブの持つ極上のクリーントーン、その少しトレブリーな澄んだトーンが体験できます。このサンプルのように古いロックやジャズ、そしてポップスまで幅広く使える音色ですね。
〜フェンダーアンプの歴史から外すことの出来ないツィード・アンプの定番であり名機!!〜Fende... |
サンプルサウンド
さきほどのツインリバーブとは違い、中低域をメインとしながらもフェンダーらしいクリーンサウンドがきちんと作られていると思います。グレッチとの相性もいいですね。
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グレッチにVOXのセッティングだと、ジョージハリスンですね。まずは普通のクリーンサウンドを弾いてみます。
サンプルサウンド
澄み切った感じはないものの、まさに「ギターサウンド」らしいクリーンサウンドですね。特に和音が真空管っぽくてきれいです。では、ちょっと歪ませてみましょうか。
サンプルサウンド2
これはアンプモデリングのゲインは上のクリーンサウンドのまま、そこに>Ibanez TS808のモデリングエフェクトをプラスし、フルドライブさせたサウンドです。もともと中低域によったVOXアンプのサウンドと、中域をブーストするTS系のドライブが合わさって、迫力のあるドライブサウンドとなります。お気に入りのセッティングです。
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マーシャル初の100Wモデル、Marshall JTM45のモデリングサウンドです。これはパラメータを全てフルテンにしています。今ならば綺麗なクランチサウンド、といえるでしょうか。この音が「極上のディストーション」と言われた、まさに60年代の歪みのレベルです。当時の人が今のハイゲインサウンドを聴くと、ただのノイズに聞こえるかもしれませんね・・・しかし、ブルースっぽい歪みがしっかり再現されています。
では、現代のロックにも使えるように、さらに歪ませてみましょう。先ほども使った、Ibanez TS808のモデリングを、今度は浅めの歪みにしてアンプモデルをブーストしてみます。
サンプルサウンド2
荒々しい感じの、ゲインは低いけれどもしっかりとロックンロールで使えそうなサウンドができました。グレッチのようなハコモノを歪まると、荒っぽいというか、音のが「カッチリとしない」感じで、ルーズな雰囲気が出せますね。メタルにはちょっと不向きでしょうけど・・・。
エリック・クラプトンはJTM-45とレスポールのフロントPUを使って「ウーマン・トーン」と呼ばれる色っぽい音を出していました。それを再現してみましょう。レスポールに持ち替えてもよかったんですが、比較のためにそのままグレッチを使います。
サンプルサウンド3
少しこもった感じでありながら、高音になると鋭く抜ける、そんなウーマントーンもここまで再現できました。私はあまりブルースは詳しくないので、フレーズはブルースっぽくありませんが・・・しかしこの音はブルージーな雰囲気があると思います。
Marshall JCM2000 DSL100
まさに現代のマーシャルサウンドの基本ともいうべき、JCM2000シリーズのスタックアンプのモデリングです。まずはクリーントーンから弾いてみます。
サンプルサウンド
ちょっと歪んでますね。どうもこのToneLab SEはクラシックなクランチサウンドは非常に得意なのですが、モダンハイゲイン系のアンプのモデリングはちょっと苦手なのです。逆に、Line6のPODシリーズはモダンハイゲイン系は得意な反面、クラシックなクランチサウンドは苦手だそうですね。このあたりはさすがに1つの機材で多数の音を出すモデリングマルチの限界でしょうか。
では、クランチ程度にゲインを上げてみます。
サンプルサウンド2
ちょっと低音がブーミーな感じがあります。マーシャルサウンドの方向性にはありますが、JTM45ほど完成されたサウンドには聞こえないですね。しかし、ここまできたらさらに歪ませてみましょうか。
サンプルサウンド3
ゲインをフルテンにし、チューニングをドロップDにしたモダンヘヴィネス系のフレーズですが・・・もはや何がなんだか分かりませんw
ただ、これはギター側のせいでもあります。グレッチはやはり、深く歪ませるよりも、クリーン〜クランチ程度が非常に得意な反面、深く歪ませると音の輪郭がなくなってしまう特徴を持っています。しかし、もしこれが本物のJCM2000でここまで歪ませたとすれば、グレッチだと音が出る前にハウリングしてしまって使うことすらできないかもしれませんね。グレッチでヘヴィネス系、といったマネができてしまうのも、モデリングならではといえるかも知れません。
Slodano ハイゲインアンプ
サンプルサウンド
まさに現代のハイゲインアンプの代表の一つである、ソルダーノアンプのモデリングです。明るい感じの歪みが特徴ですね。これはToneLabが苦手とするハイゲイン系の中でも一番使える歪みだと思いましたので載せました。他にもメサ/ブギーのモデリングをはじめとして、いくつかあるのですが、とりあえず今回は代表的なものを選んで使ってみました。
- アンプモデラーの選び方
ここまで、アンプモデラーを使ったサウンドをいくつか見てきましたが、やはりどう頑張っても本物のアンプのもつ音圧やダイレクト感にはかなわないのが現状です。また、そのモデリング機材によって得意なものから苦手なものまで様々ですので、選ぶ際にはそのことに最も注意した方がいいと思います。
それぞれでお好きなジャンルや、やりたい音楽に合わせたものをみつけることが一番大事だと思いますし、もちろんできることならば本物のアンプを手に入れる、というのが一番いい、ということも忘れないでください。
しかし、それを踏まえたうえで、アンプモデラーというのは、まだまだ発展途上にあると思いますし、今後も様々な技術が投入されて、もっともっといいものが出来上がってくるのは間違いないと思います。Line6のように、オリジナルのサウンドをモデリングから作り上げてくるメーカーさんも増えてくると思いますし、また、そういったアンプがスタンダードなサウンドとして認められることもあるかもしれません。
最近のギター業界は原点回帰というか、ヴィンテージの復刻、的なものが多いと思いますし、このモデリングという技術もその一つであるとは思いますが、そこから何か新しい音や効果が生まれてくるかもしれません。これからも目を離せないジャンルだと思いますので、じっくり見守っていきたいですね。
最後に、家電製品やデジタル機器にも通じるのですが、そういったものって新製品を待っているときりがないですよね。そこで、「欲しいと思ったときが買い時」という言葉で、今回のVOL.3を終わりたいと思います。VOL.4ではエフェクターを選ぶときに必要な試奏のことを書いてみようと思います。