少し前から待っていた、かなりおもしろいシステムが昨日届きましたのでレビューしたいと思います!
まず、これはいったい何なのか、というところからいってみましょう!
ART TUBE PREAMP SYSTEM 2 (TPS 2)
見てのとおり、1Uのラック機材となっています。
ARTというのは「Applied Research & Technology」の略で、1984年から20年以上にわたってリーズナブルなレコーディング用機材を多数リリースしている老舗のメーカーです。アメリカに本拠地をおき、創始者はエフェクターで有名なMXRの元技術者ということです。さて、これはいったい何か、ということですが、これは・・・
2chのマイクプリアンプです。
2chといっても、ギターアンプのチャンネルのように、音色を切り替えるためのもので常に片方しか使わない、というものではなく、単純に2つの同じプリアンプが1台にまとまっているタイプということですね。
マイクプリアンプというからには、これは当然マイクを繋いで音を作り、ミキサーに送るためのものなのですが、このART TPS 2は、直接ギターからのシールドを挿して使うことができるわけです。つまり、単純に真空管式のプリアンプとして使えるわけですね。
さらに、2ch仕様ということで、これ1台でギターアンプとベースアンプ、であったり、マイクプリとギターアンプ、であったり、そして2台のギターアンプであったりすることができるわけです。
とはいっても、マイクプリアンプであったり、エレキギター用のアンプ、ベースアンプ、アコギ用のアンプなどは、そもそもの製品の違い以前に、アンプとして求める音が違うので、何の設定もなしにいろいろ繋げたところで、いい音が録れないのではないかと思う方もいらっしゃると思いますので、まずはこのマイクプリアンプの機能から説明していきたいと思います。
では、コントロールを見てみましょう。
これがCH.1のコントロール部です。CH.2も同様のコントロールを持っています。(配置は左右対称です)
ツマミが4つとスイッチが3つというシンプルなコントロールなので分かりやすいと思います。左側から見ていきましょう。
こちらが、左部分のツマミです。上にあるツマミが「インプットインピーダンス」、下の2つが左から「入力ゲイン」「出力ゲイン」となっています。インプットインピーダンスは楽器を繋ぐときには使用しません。これはマイクを使うときに合わせるもので、楽器を繋ぐ場合には自動的にハイインピーダンス入力となります。
入力ゲインはプリアンプ前段のディスクリートプリアンプのゲイン(といってもギターアンプのように歪むわけではありません)、出力ゲインは最後段のアウトプットプリアンプのゲインとなっています。真空管プリアンプはその中央に位置します。
さて、そこから右に移動すると、レベルメーターがあります。上のLEDが真空管の入力側、前段のプリアンプを通った後のシグナルレベルを表示するメーター、そして下の針式のものが真空管によるプリアンプの出力側のシグナルレベルメーターとなっていて、真空管の「働き度合い」(説明書によると、how hard you are running the tube)を意味します。写真では、ファズファクトリーの発振音を入力しています。このように光るので、非常に綺麗です。LEDは一番右がクリップ(赤)、ひとつ左が0db(オレンジ)、そしてそれ以前が緑となっていて、入力ゲインでここに赤が点灯しない程度に合わせます。また、このプリアンプには「OPL」(AAじゃないですw、Output Protection Limiterの略)という回路が搭載されていて、その回路を通すセッティングにした場合、この針式のメーターがレッドゾーンに入るとリミッターが働き、音量を0dbにノーマライズすることで後につないだミキサー等を保護することもできます。出力側は、OPLを使わない場合は針が振り切らない程度、OPLを使う場合はレッドゾーンに入れない程度に設定するのが望ましいと思います。この写真ではOPLは使っていません。
こちらはレベルメーター下部にある3つのスイッチです。左からGAIN、PHANTOM、PHASEとなっています。ゲインは真空管のプリアンプ段で増幅を行うかどうか、という設定で、これをONにすると真空管プリアンプでも増幅を行い、OFFにすると真空管は音色の加工のみを行うことになります。ファンタムはそのまま、コンデンサマイクを使う場合にマイクに電源を送ります。フェイズは音の位相を切り替えるスイッチですね。音が微妙に変わりますので、その時々によってあわせればと思います。(ちなみにエフェクターのフェイザーは、正式には「Phase Shifter」といい、位相を動かすことであのシュワシュワとした効果を出すものです。Phaseとは位相という意味です)
こちらが、個人的にこのプリアンプのメインだと思っている、真空管によるヴォイシング機能、「V3」のプリセットを調整するもので、4つの大きな枠組みのなかに各4種類ずつ、系16種類のサウンドを作り出すことができます。
ここで、プリセットをご紹介します。
- ニュートラルセッティング
あまり味付けをしないセッティングです。
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- フラット・・・ヴォイシングなし
- ヴォーカル・・・ヴォーカル用
- ギターアンプ・・・ソリッドステート系のギターアンプ
- ベースギター・・・ソリッド系のベースアンプ
- ウォームセッティング
真空管の暖かみをもたせたセッティングです。
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- エレクトリックキーボード・・・キーボード用真空管アンプ
- エレクトリックギター・・・エレキギター用真空管アンプ
- ヴォーカルマイク・・・真空管マイクプリアンプ
- バルブ・・・真空管らしい音を使いながら、味付けのうすいタイプ
- ウォームセッティング (OPL使用)
OPL回路を通るもので、真空管らしい暖かみのあるセッティングです。
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- マルチアプリケーションズ・・・OPLを使った、様々な入力に対応するモード
- ヴォーカル・・・OPLを使った真空管マイクプリアンプ
- アコースティックギター・・・アコギを録る場合
- ピアノ・・・アコースティックピアノを録る場合
- ニュートラルセッティング(OPL使用)
OPLを使った、真空管らしさをあえて使わないモードです。
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- ベースギター・・・リミッター付きベースアンプ
- アコースティックギター・・・アコギを録る場合
- パーカッション・・・MIDIのパーカッションやエレドラを録る場合
- ニュートラル・・・OPLを通るニュートラルセッティング
このようになっています。順序は、真下(6時の位置)から時計回りにみていますので、ツマミの上半分がWarm Setting、下半分がNeutral Settingとなります。OPLを使うか使わないか、というのは、入力の上下幅が非常に大きいかそれほどでもないか、というもので判断すればいいと思います。このプリセットは、一応その表示されている楽器に合わせてありますが、たとえばギターでパーカッションモードにしても壊れたりすることはありません。それだけ音の幅が広いと考えればいいと思います。
中央の真空管部分です。コントロールは特にありませんが、このように光るのでなかなかかっこいいです。青いパネルにオレンジの光といえば、VOX TONELAB SEを思い出しますね。
コントロール系統は以上です。通常のギターアンプとは異なりますので説明が長くなりましたが、バンド等でミキサーをいじったり、スタジオでのレコーディング等をしたことがあれば、説明書を読まなくても即座に使えると思います。
次に、接続系統の説明をしたいと思います。
では、リアパネルから
リアパネルの接続は、各チャンネル4つずつとなっています。これは単純に、インプット、アウトプット各2種類ずつで、インプットは1/4フォンジャック、もしくはバランスXLRオス、アウトプットには1/4フォンジャック(アンバランス出力)、もしくはバランスXLRメスを挿し込むようになっています。
そしてフロントパネルにも各チャンネル一つずつ入力端子があります。
「ドイツのスイッチクラフト」といわれるノイトリックのジャックですが、これはXLR、1/4フォン共用となっている、便利なジャックです。ここにXLRフォンを挿し込んだ場合は「マイクロフォン」として判断し、インピーダンスコントロールに送られます。1/4フォンジャクを挿し込んだ場合は「楽器」と判断され、ハイインピーダンスとして処理されることになります。接続系はこんなところですかね。
ここで一つご紹介したい機材があります。
ART TUBE MP STUDIO V3
非常に小型で持ち運びにも便利な、1ch真空管マイクプリアンプです。大きさはKORG DT-10より一回り大きい程度というものです。ここまで見ていただいた方はすぐにお分かりかと思いますが、今回紹介するART TUBE PREAMP SYSTEM 2からマイク用のインプットインピーダンスコントロールを廃し、1ch仕様としたもので、マイクプリアンプにも、ギター用アンプやDIボックスとしても使うことが出来る優れものです。
そして、さらに機能を限定させた廉価版のマイクプリアンプ、ART TUBE MPというものもあり、こちらは針式メーターとV3ヴォイシングが省かれていますが、ギターとの相性もいいようです。
では、レビューの方をしてみたいと思います。
- 操作性
先ほども書きましたが、多少バンド経験のある方ならば即座に、説明書を読まなくとも簡単に使えると思います。あえて問題点を書くとすれば、コントロールの配置が左右対称となっているため、Ch.1の操作に慣れるとCh.2のインプットレベルとアウトプットレベルを間違えることがある点と、あとヴォイシングを設定するロータリースイッチですが、「カチッ」というクリック感がすこしあいまいなので、今どこを指しているのかが感覚的に分かりにくく、パネルをしっかり見て設定しないといけないところ、くらいですね。
前面にインプットがある、というのは通常のギター用アンプヘッドのように使うことが出来、非常に便利です。XLRとの共有ジャックも、しっかりとしていて安心です。さすがノイトリックですね。
- サウンドレポート
とりあえず1日いじくってみて、「ギターアンプらしい」音の録り方が分かってきましたので、それを書いてみます。まずは音を聴いてもらいますね。
サンプルサウンド
このように、かなり真空管らしい暖かみのある音を作ることができます。このセッティングは、
レスポール→ZVEX The Box of Rock→Rocktron DEEP BLUE Mod.→ART TPS 2→YAMAHA MW10
となっています。ステレオコーラスの揺れ感をあらわすため、DEEP BLUEからはステレオで、TPS2のCH.1、CH.2両方につないでいます。ステレオLチャンネルがCH.1で、プリセットはWarm Electric Guitarです。CH.2はステレオRチャンネルで、プリセットはNeutral Guitar Ampとしています。LRで違ったアンプを選択することでも、より広がりのある音を作ることが出来ます。
ところで、このART2のプリセットですが、「ギターアンプ」としてみると、多少チューブっぽい感じはあるものの、基本的に「まったく歪まない」「フラットな」アンプです。いわゆる真空管っぽさのあるジャズコーラス、のように使います。私はこれに、この写真のようにミキサー側のイコライザでトレブルとベースはフラットのまま、ミドルを少しブーストすることで、よりギターアンプらしいものにしています。
この機材を「ギター用プリアンプ」としてライン録りする場合は、このようにどこかでイコライジングをしてやると、よりリアルなギターサウンドが作れると思います。
というわけで、今回は汎用性の非常に高いマイクプリアンプ、ART TUBE PREAMP SYSTEM 2のレビューでした。ギターアンプって、なかなか「安価」で「真空管らしい音」で、「ライン録りに向いたもの」は少ないのですが、これは価格を考えると本当にオススメです。歪みはエフェクターで作ればいい、と割り切ってしまえば、本当に「使える」機材だと思います。是非お試しを!