チューブスクリーマー特集、Part1に大変な反響をいただきました。嬉しいです。
さて、第2回の今回は、チューブスクリーマーの音について書いてみたいと思います。
では、いってみましょう!
チューブスクリーマーのイメージ
定番のオーバードライブペダル、といえばいろいろなペダルがありますが、「チューブスクリーマー」というエフェクターを無視することはできないと思います。しかし、「オーバードライブサウンド」といって想像するサウンドは、必ずしもチューブスクリーマーのサウンドとは限りません。というより、エフェクターの音ではなくチューブアンプが歪んだ音を思い浮かべることが多いのではないかと思います。
チューブスクリーマー(Tube Screamer)は、「真空管を叫ばせる者」(Screamは自動詞なのでちょっとニュアンスは違いますが)的な意味です。
つまり、元々アンプをブーストするために作られたエフェクターで、実際そういう用途で使われることがほとんどです。そのため、Tube Screamerを使ってCDなどに録られた音は、その多くが「アンプの歪みをTSでブーストしたサウンド」となっています。
では、「エフェクターとして」のチューブスクリーマーはどんな音なんでしょうか。
特に、定番のオーバードライブであるという点から、初めてのオーバードライブにチューブスクリーマーを選んだプレイヤーも多いと思います。しかし、それは期待通りの音だったでしょうか?
たぶん、その多くは「違う」と言われるのではないでしょうか。一般的によく言われるチューブスクリーマーの音のイメージといえば
- 全然歪まない
- 鼻のつまったような音
- 音がこもる
といったことがよく言われます。
まず、全然歪まないという点についてですが、Tube Screamerはそれほどローゲインなペダルではありません。もちろんハイゲインでもありませんが、けっこうしっかり歪んでいます。
しかし、その歪みがきめ細やかでスムーズなため、とくに単音を弾くと音が柔らかく、エッジが立たないサウンドになってしまい、「歪んでる」という感覚があまりないのが原因ではないかと思います。しかし、そのきめ細やかな歪みとエッジがあまり立たないサウンドは、特にブルース系をはじめ、ロック系のリードギターサウンドには最適で、チューブスクリーマーの人気の理由でもあります。
続いて、鼻のつまったような音についてです。これは有名な話ですが、チューブスクリーマーの持つ強力なミッドレンジブーストサウンドが原因と言われます。
ミッドレンジはギターにとって特に重要な帯域です。しかし、チューブスクリーマーほどミッドレンジを強調するエフェクターはそれほど多くありません。さらに、さきほどのきめ細かい歪みとエッジがあまり立たない特性が合わさることで、言い方によってはのっぺりとしてトレブルを抑えたような音色に聞こえてしまいます。これは例えば、TONEを上げることでやわらげることは可能です。
そして音がこもるという点。これは、チューブスクリーマーの持つ、悪く言えば鼻つまり音、つまりミッドレンジを強調するという特性から相対的に高域が減衰しているように聞こえるという点が1つ。そしてもう1つが、出力レベルの低さによるものです。特に現行のリイシューモデルに言えることですが、Tube ScreamerはLevelノブをかなり上げないと音量が下がって聞こえてしまいます。
音量が小さいと、音はこもって抜けないように聞こえるため、こういうイメージが付いたのではないかと思います。
アンプブーストと、エフェクターとしてのポテンシャル
しかし、この先に述べたような特性が、チューブアンプのブーストとしては最適な効果を生み出します。
特にトレブリーなサウンドのモデルが多いFenderアンプはその音色の硬さ、きつさを緩和して柔らかい音色に、逆にローミッドが強いMarshallやVox等のブリティッシュアンプには、時としてブーミーになりすぎたり、迫力が出過ぎる音色を抑え、使いやすいサウンドへと替えることができるのが特徴です。
そして、十分なゲインの高さ。つまり、アンプをしっかりプッシュし、音を歪ませられるという点を満たし、さらに多くの定番アンプの特性をあえてやわらげるようなイコライジングが同時にできることから、ブースターとして長年、高い人気を保ち続けています。
では、エフェクターとして。特にクリーンアンプにつなぐ歪みペダルとして見るとどうでしょうか。
まず、先に挙げたチューブスクリーマーの特性・・・スムーズでミッドレンジを強調したサウンド・・・が好きという方には、当然支持されているでしょう。
しかし、チューブスクリーマーのポテンシャルは実はそれだけではありません。
SRVことスティーヴィー・レイ・ヴォーンはチューブスクリーマーを2台直列につないでいたことが有名ですが、実際にこれをやってみるとチューブスクリーマーのエフェクターとしてのポテンシャルが非常によく分かります。
あまり歪まないように聞こえて、しかも音がこもるという、なんだか頼りなく感じてしまう特性が一変し、太くエッジの立った歪みを作り出すことができるようになるのです。余談ですが、チューブスクリーマー4台を直列でつないで使ってみると昔のパンクやメロコア系のような、軽くて明るく、ゲインの高いサウンドが得られましたw
つまり、いわゆるチューブスクリーマーはあえてその牙を隠しているペダルで、そもそものエフェクターとしてのポテンシャルは非常に高く、ちょっとした工夫で様々な音色を作ることができるペダルなのです。
実際、Ibanezもそれを理解しているようで、例えばTS9DXのように、サウンドバリエーションを選ぶことのできるモデルも作られています。
TS系ペダル
1990年代後半、エフェクターのバリエーションは爆発的な増殖を始めます。ハンドメイド系エフェクターの人気に火が付き、参入のしやすさ等があいまって様々なエフェクターブランドが登場したからです。その牽引役となったものの1つが、「TS系」と呼ばれるオーバードライブペダルでした。それは、チューブスクリーマーの回路をベースに改変が行われたペダルで、それぞれが似た回路であるにもかかわらず、それぞれ違った個性を持つエフェクターが多数登場しました。一時期は新型のオーバードライブが出ればその9割はTS系と言っても過言ではないような状況になったほどです。
ではなぜ、そんなことになったのでしょうか。個人的な考えですが、その原因の1つはAnalog.Manというブランドの存在ではないかと思います。
現在でも有名なエフェクターブランドであるAnalog.Manですが、ブランドを主宰するAnalog Mike氏はかなりのチューブスクリーマーフリークで、数多くのチューブスクリーマーを研究し、インターネット黎明期からブランドページでその詳細な研究結果を公表してきました。
さらに、自社ブランドで、TS9 Reissue
やTS808 Reissueのモディファイペダルを販売しており、チューブスクリーマーは回路の一部やパーツを替えることで出音を大きく変えられるということが一般的となったのではないかと思います。
また同時に、Fulltoneというブランドの存在もありました。今ではAnalog.Manと並んでアメリカを代表する大手エフェクターメーカーへと成長したFulltoneですが、そのFulltoneのロングセラーエフェクター「Full Drive 2」がTS系ペダルに与えた影響は測りしれません。Full Drive 2以前にもTS系ペダルは作られていましたが、TS系ペダルが一般化したのは間違いなくFull Drive 2の功績です。
さて、Analog.ManやFulltoneの影響で一般的となったTS系ペダルをさらに発展させたブランドがあります。それはLandgraffというブランドです。
現在でもハイエンドオーバードライブの定番として知られるLandgraff Dynamic Overdriveは、現在でもそうですが当時エフェクターではほとんど存在しなかったほどの価格・・・つまりアンプヘッドが変えてしまうほどの価格設定とクリッピングを切り替えられるというギミックで有名になりました。
【エフェクター】LANDGRAFF ( ランドグラフ ) Dynamic Over Drive |
クリッピングをスイッチで切り替えることで、簡単に音のバリエーションが増やせるという手軽で効果的なギミック、そして回路知識があれば簡単に作れそうに見えるそのペダルがすさまじいサウンドを出力する。アメリカ南部の小さなお店で取り扱われていたそのマニアックなエフェクターは多くのフォロワーを生むことになります。つまりTS系ペダルがさらに発展し、一般化する役割を果たしたのです。
なお、一応述べておきますが、単純に回路を同じにしただけでは同じ音を作ることはできません。それはその後、膨大なフォロワーが出たにもかかわらず、今でも「Landgraffの音」を「もっと手頃な価格で実現する」ということにたどり着いたブランドが存在しないことが雄弁に語っています。
TS系ペダルの発展はとどまることを知らず、遂には本家であるIbanezすら、TS808HWというあるいみ究極の「TS系」ペダルを作ってしまったほどです。
TS系の「お約束」
そうして増殖したTS系ペダル。もちろん全てが該当するわけではありませんが、多くのペダルに共通する点、いわば「お約束」があります。ちょっと挙げてみましょう。
- トゥルーバイパス
- バッファが省かれている
- ミッドレンジが抑えられ、さらに広い帯域をブーストしている
- ゲインが高くなっている
- レスポンスが速くなっている
- クリッピングの切替ができる
- ハンドメイド、ハンドワイアードである
- 出力が高くなっている。
こんな感じでしょうか。
クリッピングの切替は無いモデルも多く、Full Drive 2以外のクリッピング切替機能を持つTS系ペダル、特に3モードの切替を持つMXRサイズでLandgraffサウンドを目指したペダルは「Landgraff系」という呼び方がされることもあります。
チューブスクリーマーとTS系オーバードライブの音
では、本家チューブスクリーマーとTS系オーバードライブはどのように違うのでしょうか?
まず、ほぼ全ての「TS系」ペダルが持つ特徴として「ミッドレンジが抑えられ、さらに広い帯域をブーストしている」という点が挙げられます。これはチューブスクリーマーの持つ、鼻つまり感を抑え、よりリアルなギターサウンドを得ることを目的にしています。
トゥルーバイパスというのもほぼ全てのTS系ペダルの特徴にあてはまりますが、これはもうハンドメイド系の特徴の1つと言っても良いほど一般的なのであえて語ることはしません。
ただ、バッファを取り払うことでレスポンスを向上させている、つまりギターのヴォリュームやピッキングの強弱に対する追従性を高めているという要素は多くのTS系ペダルに見られます。
より高いゲインに対応しているのもほとんどのTS系に見られる特徴で、チューブスクリーマーでは物足りなかった歪みを充足させるために行われています。(これは前述のTS9DXでも実装された機能です。)
出力はオリジナルチューブスクリーマーの音が小さめであるという点をより大音量にまで対応させたものですね。
しかし、これらの変更自体は、回路設計ができる開発者にとっては難しいことではありません。つまり、ちょっとした変更で出音を大きく変えることができ、さらにその出音がどれも良い音であるということが、チューブスクリーマーの回路の優秀さと、エフェクターとしての高いポテンシャルを示していると言えるでしょう。(念のため書きますが、回路変更自体は簡単でも、そこからパーツ類の組み合わせ等でバランスを取り、安定した供給を実現するのが、流通できるエフェクター開発の難しさです。)
では、最後に、実際にチューブスクリーマーとTS系ペダルの音を聞き比べてみましょう。
今回は、オリジナルチューブスクリーマーの復刻品であるTS808 Reissueと、TS系の中でもチューブスクリーマーの音に近いと言われるLovepedal Eternityの音を比べてみましょう。
どちらもバッキングは左、リードは右に寄せています。バッキングはストラト(リアPU)、リードはレスポール(フロントPU)で録っています。アンプはKoch Classic SE。クリーンセッティングです。
動画バージョン(Youtube)
動画バージョン(ニコニコ動画)
こんな感じです。
分かりやすいのはTS808のリードがやはりミッドレンジが強く出ている点、そしてEternityのバッキングがTS808よりも抜けているという点ではないかと思います。
また、基本的には同じ系統の音であるというのも分かるのではないでしょうか。また、ノブ設定からそれぞれの音量の違いも分かると思います。
このあたりで、チューブスクリーマー特集、第2回は終わりたいと思います。
次回は明日、というわけにはいかないと思いますが、いろいろなTS系のご紹介を今改めてやりたいと考えています。Part3へ続く
人気blogランキングへ