さて、ディレイ基礎編の2回目は、前回に続き、アナログディレイです。前回では、アナログディレイの仕組みについて説明し、特に激安なモデルを紹介しましたが、今回は定番といえるものからよりハイエンドな機材までをみていこうと思います。
では、いってみましょう!
アナログディレイは、機能的に見れば非常に不完全な機材であるといえます。特に、音楽的な面でなく、ひとつの「機材」としてみた場合ですが、ディレイとは、自由自在なテンポで、好きなときに音を取り出すことができるものであることを目標に開発されたと思います。そういう意味で、純粋に「ディレイ」としての理想系に最も近いのは、今のところデジタルディレイであるという点は間違いないと思います。
しかし、音楽的な視点からみると、アナログディレイは「使えない機材」ではない、ということはみなさんよくご存知だと思います。
現在、ポップスからロック等にいたるまで、エレキギターサウンドの一つとして欠かせない「歪み」の音を思えば、これはもともと出力の高い「ジャズ用ギター」を使い、ヴォリュームを上げすぎて「あってはならない歪み」の組み合わせ(つまりレスポールとマーシャルアンプのことですね)という「想定外の使い方」から生まれたものですし、そういうことを思えば、「音楽機材」の「理想」を語ること自体がおかしなことかもしれませんね。
というわけで、「自然なかかりかた」や「発振」といった特徴をもつアナログディレイの定番〜ハイエンドなものを紹介していきます。
Red Repeatは最大600ミリセカンドのロングディレイを可能にしたアナログディレイCARL MARTIN / ... |
このペダル、アナログディレイとしてはとても安いものだと思います。とにかく基本的なアナログディレイを作ったらこうなった、というものでしょうか。「アナログディレイの音」を「信頼性のある機材で」、という方にはいいかもしれませんね。
※このペダル、実はデジタルだという情報をいただきました。現在確認中ですが、結果が分かり次第、こちらに書かせていただきます。
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- 追記;代理店さんからお返事をいただきました。このペダルは、BBD素子を使わずその部分だけをデジタル処理しているようです。いわばデジタルとアナログのハイブリッドペダルということですね。純粋なアナログディレイとはいえませんが、ヴィンテージテープエコー風のサウンドを目標に作られたペダルだということです。
IBANEZ AD9
まさに定番といえる、Ibanezのアナログディレイです。"9"シリーズのリイシューモデルですね。DELAY TIME、REPEAT、DELAY LEVELのシンプルな3コントロールで、20〜300msのディレイタイムをもった、まさにアナログディレイらしいアナログディレイです。アナログディレイ特有の、すこしこもった味わい深いサウンドが売りとのことですね。使っている方も多いと思います。
MAXON AD999
非常に人気の高いアナログディレイです。MC4107DというBBD素子を搭載し、最長900msという長いディレイタイムは、発売当初はアナログディレイとして最長を誇るものでした。4PDTスイッチを使ったトゥルー・バイパスで、長いディレイタイムと、MAXONの意気込みがうかがえるペダルです。
BBD素子、MC4107Dを8つ搭載し、それぞれの調整を行うためでしょうか、24コのトリムポッドが並ぶこの回路は圧巻といえるものだと思います。トリムポッドは多分、メーカーさんが調整するためのもので、ユーザー側では触らない方がよさそうですが・・・。
ディレイ音としては、アナログディレイの中ではどちらかというとクリアできれいな音のようです。デジタルとは違った、分かりやすい「アナログらしさ」を求める方には音がクリアすぎると思われるかもしれませんが・・・これってよく考えるとすごいことですよ。BBD素子を8つ使ってディレイを作っていることで、クロック周波数は高い位置をたもったままロングディレイを作り出すことができるため、音がこもることなく、クリアなまま聴こえる、ということだと思います。余計なフィルタリングのない、「本来のアナログディレイ」の音はこういうものなのかもしれません。この中身をみてしまうと、専用ACアダプタによる駆動も仕方ない、と言わざるをえませんね。
MAXON AD9pro
こちらは登場したばかりの新製品ですね。TIME、FEEDBACK、LEVELと、テープエコー風デュアルヘッドを再現するスイッチが搭載された、最大450msのアナログディレイです。以前こちらでも紹介しましたが、4PDTトゥルー・バイパス、そしてアルカリ9V電池で7時間駆動というのはディレイとしては相当長い方だと思います。AD999とはまた違った視点からアナログディレイを作ったMAXONの、ディレイへの思いはとても熱いですね。
BOSSがより「理想的」なデジタルディレイに早いうちから移行したのに対して、MAXON/IBANEZはアナログディレイにこだわり続けていますね。そのおかげで、日本ではBOSSの多機能なデジタルディレイと、MAXON/IBANEZのこだわりのアナログディレイ、どちらも質の高いものを安定してお店で見つけることができます。うれしいことですね。
Smart People Factory / INTERSTATE 5 【スマートピープルファクトリー】【インターステート5】... |
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- 機能的におもしろいですが、どうやらこのペダルも、BBDではなくそれを担う部分にデジタルICを使っているそうです。やっぱり世界最長アナログディレイはAD999ですね。
Carl Martin DELAYLA 【smtb-u】 |
また、アナログディレイとしては珍しくタップテンポを搭載しているので、実用性も非常に高いのではないかと思います。もちろん発振もするようですね。TAPコントロールとタップテンポは、このペダル独特のものですが、使いこなせば大きな武器となることが予想できます。同じデンマークのメーカーでt.c.electronic、T-REXとは一味違うエフェクトをリリースしているCARL MARTINのペダルも面白いですね。
ELECTRO-HARMONIX DELUXE MEMORY MAN
さぁ、こちらは「変態系エフェクト」の総本山(?)、エレクトロハーモニクスのアナログディレイです。この巨大でクセのあるデザインの筐体は、はまってしまうと抜けられない魅力がありますね。
コントロールは、レベル、ブレンド、フィードバック、ディレイ、コーラス/ビブラートとコーラス/ビブラートの切り替え、そしてON/OFFフットスイッチの他に、往年のエフェクターにあった「Power」スイッチがついています。これによって、ケーブル類をつなぎっぱなしでも本体の電力消費をさせないようにすることが可能ですね。
ダイレクトアウトとエコーアウトの2アウトプットを搭載していて、出力レベルを感知するオーバーロードインジケータも付いています。ディレイタイムは最長400msと、アナログらしい部分ですね。
コーラスとヴィブラートは、どうやら揺れの速さの違いのようです。ヴィブラートの方が速く、コーラスはゆっくりと揺れるようで、どちらも「モジュレーションディレイ」の一つと考えてよさそうですね。とすれば、やはりこれはディレイペダルです。
モジュレーションディレイとは、いわゆるコーラスやフランジャーのように、ディレイを使って位相を変化させ、ディレイタイムをLFO等で動かすことで揺れを表現する機能を持ったディレイのことで、広義にはコーラスペダルやフランジャーなどもこのモジュレーションディレイとして見ることができます。ディレイに対するオマケとして付くことが多いので、「モジュレーションディレイ」というのではないか、と思います。
Moog music MF104Z Analog Delay
多機能高級エフェクトとして、他とは違うオーラを持った、moogerfoogerのアナログディレイです。価格も高いですが、機能もすごいです。
まず、ディレイタイムは50〜500ms、または100〜1000msの2種類のコントロールに切り替えができます。狙った領域でのディレイタイム設定をより細かく行うための配慮ですね。MIXコントロールではダイレクトとエフェクト音のバランスを調整します。
右側にあるフィードバックはディレイのリピート数を調整し、その下のスイッチで、SPFのアナログディレイのように外部エフェクトループを通すか、通さないかを設定できます。こうしてみると、SMART PEOPLE FACTORY INTERSTATE 5は、このMoogのペダルの廉価版のようにも見えますね。機能的にも最大1秒のアナログディレイで、外部エフェクトループを搭載している点など、似ているところが見られます。
あとは、レベルの設定で、入力レベル(DRIVE)、出力レベル(OUTPUT)、エフェクトループの入力レベル(LOOP GAIN)と、それぞれを細かく設定することができます。3つのLEDで、ON/OFF、入力/ループレベルのクリップを表示してくれるので、使いやすいと思います。
これだけ詳細にコントロールできてしまうと、使いこなすのが大変そうですが、いちど手なずければ、特にレコーディングで力を発揮するアナログディレイとして、非常にすばらしいものとなるのではないでしょうか。
というわけで、今回は8種類のペダルを紹介してみました。アナログディレイはさほど数が多くはないですね。今回紹介したもので、今ネットで買える現行品のほとんどを紹介してしまったように思います。もっと数がある方がいろいろ選べて面白いんですけどね。
実はアナログディレイは、ある受注生産のものを一つオーダーしているんですよ。といっても高いものではなく、アナログディレイの中では安いモデルなんですけどね。来月くらいに出来上がると思うので、そのときにはまたレビューしたいと思います。