先日、無償でのダウンロードが解禁された、「Cakewalk by BandLab」。以前までのSONAR Plutinum相当の機能を持つ、フル機能のDAWソフトウェアです。
SONAR復活! 「Cakewalk by Bandlab」としてかつてのSONARが無料になったのでインストールしてみた
これって実はとんでもないことなんです。今後のDAW勢力図ががらっと塗り変わることも考えられるほどのことです。何がそんなにすごいことなのか、ちょっと書いてみたいと思います。
- DAWとは
今更説明することもないとは思いますが・・・そもそもDAWって何なのか。DAWは、デジタルオーディオワークステーションの頭文字で、音楽制作を行うための基本となるソフトです。古い言い方をするとシーケンサーソフト。シーケンサーソフトはもともとMIDIを使った自動演奏を行うための音楽制作ソフトとして発展し、そこにオーディオファイル、すなわちレコーダーとしての機能を追加したものが今のDAWの元祖となっています。
かつてはOpcodeのVision、SteinbergのCubase、MOTUのPerformer、そしてAppleのLogicが特にシェアの高いシーケンサーソフトでした。一方、プロフェッショナル向けに制作されていたのがDigidesignのProToolsで、当時のPCのスペックでは難しかったハードディスクレコーディングをこなすため、ハードウェアの拡張機器と合わせて使われていました。(ProToolsの前身であるSound Toolsはなんと89年発売。Macintosh専用で、DAWソフトの全ての元祖はここからとも言えます。)
PCのスペックが上がり、処理能力だけでなくデータ容量の向上も進むにしたがい、ハードディスクレコーディングとシーケンサーソフトが融合し、現在のDAWの形へと変わってきました。MTR(マルチトラックレコーディング)としての機能に加え、MIDIを用いた自動演奏機能を持つソフトウェアで、さらにそれらの音にエフェクトをかけたり、ミックス、マスタリングまでの機能を持つもの、それがDAWです。
- DAWができること
・マルチトラックレコーディング
2000年代初期〜中期ごろ、まだ一般のバンドレコーディングはハードウェアMTRが主流でした。2000年代中期ごろにDAWが一般的になりはじめ、「パソコンがMTRになる」というような広告などもよく見かけていました。そのころはそういう認識だったんですよね。
マルチトラックレコーディングは、言うまでも無く楽器やヴォーカルなどの演奏を録音し、それらを複数のトラックで重ねていくこと。今のDAWでは当たり前の非破壊レコーディング。つまり前のデータを残したまま新しい録音を行い、元に戻したりすることができるというのも、当時のMTRではできませんでした。
DAWではそういった自由なレコーディングはもちろん、無限大のトラック数を扱うことができ、自在にレコーディングしたオーディオファイルを組み合わせて楽曲を作ることができます。
・ソフトウェアシンセサイザーを用いた自動演奏(シーケンサー)
1982年に登場したMIDIという規格は、もともと自動演奏を念頭に開発された規格です。ギター機材だと機器を制御するための信号というイメージがあったり、もっと昔のPCでMIDIといえばそれ自体がオーディオファイル(違うんですけど)という認識がなされていたりします。
ちなみにMIDIファイルとは自動演奏を行うための「楽譜」で、これを読み込んでソフトシンセが楽曲を奏でます。MIDIファイルを開くと、PCに搭載されている音源(ソフトシンセ)がMIDIファイルの楽譜どおりに楽曲を演奏します。そういったMIDIファイルを組み合わせて楽曲を作るソフトが、前述のシーケンサーソフトだったわけですね。
DAWでもその構造は同じですが、それらをマルチトラックレコーディングと組み合わせ、ソフトシンセの音とレコーディングした音を合わせて楽曲として構築していくことができます。
「音源」というソフトがあります。これはいわゆるソフトウェアシンセサイザーで、例えば「ベース音源」というと、ベースの音を出すために作られたソフトシンセということです。ボカロも同じ。ヴォーカルを演奏するためのソフトシンセです。シンセサイザーは鍵盤やウィンドシンセといったコントローラーを用いてリアルタイムな演奏を行うこともできますし、シーケンサーを介して自動でループバックさせながらエフェクトで音を変えていくようなプレイングも可能。もちろん、DAWでもそういった使い方もできます。
・プラグインによる拡張機能
拡張機能というと語弊があるんですが、実質的に拡張機能として使われていることが多いので、そう書きます。
プラグインとは、エフェクト機能、またはインストゥルメント機能(=ソフトシンセとしての機能)を持ったソフトウェアのことです。主にSteinbergの開発したVST、ProToolsにて使用されるAAX、Apple Logicで使用されるAUといった規格があります。他にもいろいろありますが、この3つが特に多く使われています。
VSTとはバーチャルスタジオテクノロジーの略で、PCを仮想スタジオにしてしまおうという発想から来ていますね。最も多くのソフトウェアが制作されており、エフェクトとして、ソフトシンセとして(VSTi)、様々なものが発売されています。たいていのプラグインがサポートしている規格で、VSTとAAX、VSTとAU、VST、AAX、AU全てといった形でパッケージングされて販売されることが主となっています。もちろん例外もありますけどね。
・オーディオミックスダウン等、ファイル書き出し機能
ここまでの機能、無限大のマルチトラックレコーディング、無限大のMIDIトラック、無限大のエフェクト/プラグインを用いて制作された楽曲を、L/R、2トラックのステレオミックスとして落とし込む(またはモノラルミックスとして落とし込む)のが、オーディオミックスダウンです。ここまで制作した楽曲を作品としての形にする機能、それもDAWの大切な機能と言えます。
- DAWは高価である。
オーディオインターフェース等、音楽を始めるために必要な機器には、無償のDAWソフトウェアが付属していることがあります。それらの無償DAWには機能制限がかけられていて、有償のフル機能DAWソフトウェアへのステップアップを行うことで、これまでの機能全てを使うことができるようになります。
そういったDAWの最上位モデルを、フル機能のDAWと呼ぶことにしましょう。フル機能のDAWの中でも一般的なものをいくつか挙げてみます。
Apple Logic Pro X
(パッケージ販売なし)
まだまだいろいろありますが、こんな感じで様々なDAWが発売されています。ここに載せたのは定番的なものばかりです。以前ならここにCakewalk SONARシリーズも入っていたことでしょう。
まぁ見ての通り、数万円するのが、これまでのフル機能DAWの常識でした。もちろん、より低価格な機能制限モデルや、フリーウェアのDAWソフトもあります。ただ、いわゆる一般的なDAWの最上位モデルに匹敵するものはありませんでした。
そう、Cakewalk by BandLabが公開されるまでは。
これまでも、無償DAWで「良いモデル」はありました。良いモデルとは、機能制限が少なかったり、制限された中でできることが多かったりするという意味。「これだけの機能があれば十分楽曲制作はできるよね」というものでした。これまでの無料DAWの中で特に機能性が高かったのがMac用のGarageband。ですがこれもLogic Proの下位モデルという位置づけです。
ところが、Cakewalk by BandLabは違います。完全に、多くのDAW最上位モデルに匹敵する機能を持つ、正真正銘フル機能のDAWです。無制限の入出力、無制限のトラック、無制限のエフェクト、384kのサンプリングレート、64bitのビットレート、VST、VST2、VST3、DirectXプラグインに対応し、様々な規格のオーディオファイルへの書き出しが可能です。要はなんでもできます、といっても過言ではありません。これはまさに革命と言えます。
ちなみに、音楽制作現場ではMac使用率が高いです。それは元々業界標準のDAWソフト、ProToolsがもともとMac用だったこと、またGaragebandというレベルの高い無料DAWが標準で使うことができる、ということがあります。そのため、UADなどMac用を主として製品を開発するメーカーも多くあります。
Cakewalk by BandLabは、前身のSONARシリーズがそうだったこともあり、Windows用です。PC全体のシェアではWindowsの方が高いわけで、完全なフル機能DAWであるCakewalk by BandLabが「今後もずっと無料で配信されるなら」という前提ですが、初めて触れるDAWがCakewalk、というプレイヤーが今後増えてくる可能性があります。
いや、それどころか、元々はステップアップという流れで他のDAWの機能制限モデルを使用していたプレイヤーが、同じDAWの上位モデルではなく、Cakewalkに移行する、という流れすら考えられます。
もちろん、他社が黙ってそれを見ているということは無いと思いますので、何らかの動きが今後あるとは思いますが、少なくとも「フル機能のDAWを無料で使えるようにした」という、功績となるのか原罪となるのかは後世の評価次第かもしれませんが、それはとても大きなことなんですね。
かつて、日本国内、特にWindowsユーザーの使うDAWは、CubaseシリーズとSONARシリーズが二分していました。理由は簡単。オーディオインターフェースやマルチエフェクター、シンセサイザー等、音楽とPCをつなぐための最初の機器に、それぞれの機能制限版が付属していたからです。ヤマハ系はCubase、ローランド系はSONARでした。
現在、国内ではCubaseのシェアが圧倒的に多くなっています。Steinbergのオーディオインターフェースが一般化したことも大きな要因と言えますし、ローランドがCakewalkを手放したことも大きな要因です。ただ、ここでCakewalk by BandLabが無償公開されたことにより、シェアが今後がらっと変わることもあり得ます。
ともすれば・・・本当にともすればですが、業界標準のProToolsに取って代わり、プレイヤーが使用するPCもWindowsが主流になる・・・ということすら、あるかもしれません。(飛躍しすぎかw)
今はまだ、「あのSONARが無料で使えるようになった、ラッキー」というくらいの事かもしれません。また、元々SONARを購入していたプレイヤーからすれば、気分の良いものではないかもしれません。
ただ、今回の無償公開って、長い目で見ると、それほど大きなことだと思います。
今後のDAWの動向、楽しみです。私自身はメインとしてCubaseをずっと使っていて、Cubase Proというフル機能のものを持っているので「早速乗り換えるぜ」みたいな感じにはなっていないんですが、それは別として、Cakewalk by BandLabの使い方は覚えたいと思っています。
ちょっと、Cakewalk by BandLabを使った記事のシリーズを1つ考えていて、それをやりながら自分でも使い方を覚えていこうかなと思っています。
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